研究実績の概要 |
カルボニル基の酸素原子をセレン原子に置き換えたセレノカルボニル化合物は、セレン原子上にLUMOが広がっていることから求核剤がセレン上を攻撃するなど、通常のカルボニル化合物とは異なる特異な反応性を示すため、合成化学上有用な官能基の一つである。その構築法としてカルボニル化合物に対してアミン存在下、単体セレン、ヒドロクロロシランとを反応させる方法が開発されてきた。これまですでにこれを用いてクマリンや2-ピロンのC=O基をC=Se基に置換える反応が行われ、得られた生成物の構造も解明されてきた。それに対してここでは、一連の2-ピロンやクマリンを系統的に合成し、それらに対する求核剤、親電子剤の反応を行い、以下の成果を得た。 まず、4-アリール-6-メチル-2H-ピロンのセレノ化反応を検討した。組込まれている置換基によって反応条件の最適化が必要であったが、いずれの基質でも対応するセレノピロンの合成に成功した。更に同様の反応をイソクマリン及びクマリン誘導体でも検討し、低収率ではあるもののセレノ化体を得た。なおこれらの空気中質尾での安定性は、主骨格に組込む置換基に依存するが、無置換2-セレノピロンは室温で容易に分解した。 ついで得られたセレノピロンの77Se NMRおよび紫外可視吸収スペクトルの測定を行った。77Se NMRにおける化学シフトが置換基によって大きくシフトすることとは対照的に、紫外可視吸収スペクトルでは、極大吸収波長の変化はほとんど見られないことを明らかにできた。 最後に反応性の調査も行い、セレノピロンに対してメチルトリフラートを作用させると、セレン上にメチル基が付加する反応が定量的に進行し、前例のないピリリウム塩を単離することに成功した。この塩のX線構造解析ならびに1H, 13C, 77Se NMRスペクトルより、塩は芳香族性を持つことを類推している。
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