研究領域 | 感応性化学種が拓く新物質科学 |
研究課題/領域番号 |
15H00935
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研究機関 | 関西学院大学 |
研究代表者 |
吉川 浩史 関西学院大学, 理工学部, 准教授 (60397453)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 金属有機構造体 / 二次電池 / ジスルフィド |
研究実績の概要 |
今年度は、レドックスアクティブな有機配位子を含むMOFの創製と高容量二次電池の開発研究において大きな進展があった。 これまでに、2電子の酸化還元反応を示すアントラキノンジカルボン酸配位子と銅イオンから成るCu-MOFを新規に作製し、これを正極活物質とする二次電池が、従来のリチウムイオン電池に匹敵する容量と非常に安定なサイクル特性を有することを見出した。これを発展させて、アントラキノンジカルボン酸とMnイオンから成る新規MOFの作製を試み、Mn7核クラスターがアントラキノンジカルボン酸により架橋された三次元構造を有する新規Mn-MOFを得た。これを正極活物質とするリチウム二次電池を作製し、その電池特性を測定したところ、1サイクル目の充電過程で70 Ah/kg、その後の充放電過程では、2段階のプラトーを示しながら200 Ah/kgの充放電容量を安定に示すことが明らかとなった。これについて、電池充放電中のin situ Mn K-edge XAFSを測定したところ、高い電圧のプラトーはMnイオンの2価と3価の酸化還元反応に、低い電圧のプラトーはアントラキノンの2電子の酸化還元に帰属でき、これにより充放電容量を説明できることが分かった。また、粉末X線回折や固体NMRなどより、Mn-MOF電池の電池反応には、ヘキサフルオロリン酸イオンとリチウムイオンの両方が関与することを明らかにした。このような反応機構を有する電池は、高いクローン効率や様々な電解質を利用できるという点で非常に有望であり、さらに金属イオンを変更することで新しいMOFと高い電池特性を得る。 また、アントラキノンジカルボン酸以外の配位子として、ジスルフィド部位を有する配位子を持つMOFについても作製とその電池特性を計測し、ジスルフィド単体よりも安定な特性が得られることが分かった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
酸化還元活性な配位子を有する新しい金属有機構造体(MOF)の作製に成功するとともに、それを正極活物質とするリチウム電池が従来のリチウムイオン電池よりも大きな容量を示したため、研究は計画通り順調に進んでいると言える。さらに、キノン系以外の酸化還元活性な配位子として、ジスルフィド部位を有する配位子を含むMOFの作製に成功したことも大きな理由の一つであり、ジスルフィドMOFも安定なサイクル特性と高い電池容量を示しつつある。このように、レドックス感応性化学種を配位子とするMOFの創製と高い蓄電特性の実現という点では、非常に良い展開が見られた。 一方で、MOFおよびその類似体を用いた新しい電気化学物性の探索については、酸化還元反応により配位子に不対電子を発生させることで、その不対電子スピンと金属イオン間の磁気的相互作用によって、酸化還元反応前とは異なる磁性を引き出すことに成功しつつあるため、こちらについても順調に進行していると言える。
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今後の研究の推進方策 |
新しい多電子レドックスMOFを創製することで、高い蓄電特性を得ることには成功したが、例えば、正極中の活物質であるMOFの重量濃度の増加、プラトー電圧領域の拡大などに改善すべき点があり、今後は、実用的な電極材料という観点で、これらの問題点を解決できるように、MOFの物質設計を行っていく。また、ジスルフィド系配位子を有するMOFに関しては、まだ研究の端緒についたばかりであり、今後、ジスルフィドMOFの空孔の大きさやジスルフィド配位子の長さなどがどのように電池特性に影響を与えるかなどについて系統的な検討を重ねる。その結果、ジスルフィドそのものやそのポリマーよりも良い電池特性を示すという結論が得れるように研究を推進する。 一方で、MOF関連化合物を用いた固体電気化学物性制御の研究については、より様々なMOFを用いてその固体電気化学反応中の磁性変化を検討する。上記で述べたジスルフィド系配位子も酸化還元により不対電子を有するので、これらの系でも新しい磁気特性の創出を狙っていく。 このように、感応性化学種を配位子とするMOFの新奇物性開拓をさらに推進する。
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