研究実績の概要 |
我々はこれまでに、レドックス感応性化学種(酸化還元活性な有機分子)を配位子として含む金属有機構造体(MOF)を正極活物質とする二次電池の開発を行ってきた。これらは、金属イオンおよび配位子のレドックスに由来する高容量と強固な空孔構造に基づく安定なサイクル特性を示すことから、次世代二次電池の有望な正極材料として期待される。 H28年度は、酸化還元活性な有機配位子に4,4'-ジピリジルジスルフィド(4dpds)を用いて、Cuイオンと反応させることで、2次元構造の[Cu(oxalate)(4dpds)](S-MOF)を合成し、これを正極活物質とするリチウム電池の充放電測定を行った。その結果、S-MOF電池では4dpdsとCuイオン両方の酸化還元に基づく理論容量170 Ah/kgとほぼ同じ値が10サイクル程度安定に観測され、4dpds電池よりも良い電池特性を示すことが分かった。 ここでは、その原因を探るため、正極のS K端XAFS測定を行って、電池反応におけるMOF中のジスルフィド(S-S)結合の状態変化の解明を試みた。その結果、充放電前は、S-S結合に帰属される低エネルギー側とS-C結合に帰属される高エネルギー側の2つのピークが観測されたが、放電後にはS-C結合に帰属される1つのピークのみが観測された。また、充放電でこのスペクトル変化は可逆であった。充放電前および充電後は、MOF中の4dpdsジスルフィド配位子はS-C及びS-S結合を有しており、2つのピークが観測されたと考えられる。一方で、放電により配位子が2電子還元され、S-S結合が開裂したため、S-C結合に帰属されるピークのみが放電後には見られたと考えられる。 上記より、MOFの強固な骨格にジスルフィド配位子を組み込むことで、電気化学反応におけるS-S結合の可逆な開裂と再結合が可能となり、安定なサイクル特性を有する電池が実現できた。
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