研究実績の概要 |
鉄アミド錯体を前駆体として用い、かさ高いチオールと無機硫黄を非極性有機溶媒中で混合する鉄-硫黄クラスター合成反応を開発し、これまでニトロゲナーゼ活性中心を模倣する鉄-硫黄クラスターの合成に成功してきた。その実績を踏まえつつ、本研究ではチオラート配位子の立体効果に変更を加えた。従来用いてきた置換基は、ベンゼン環の2,6-位に二つの芳香環を連結したものであり、これら2,6-位の芳香環がクラスター骨格を覆うことで、生成物の安定化に寄与していた。これらの芳香環の代わりにイソプロピル基を持つ、Tipチオラート配位子を導入した結果、三角柱型の[6Fe-5S]骨格を含む鉄九核クラスターが生成することを見出した。 三角柱型のクラスターは、鉄アミド錯体に2当量のTipチオールを作用させ、続いて0.5当量の無機硫黄を加える反応より得られた。Fe6三角柱が形成する5つの面には、いずれも硫黄原子が三重あるいは四重架橋し、三角柱の外側には、三つのFe(STip)3ユニットが取り囲んでいる。鉄を三角柱型に配列した構造は、非常に珍しいだけでなく、FeMo-cofactorの中央6つの鉄の配列とも関連しており興味深い。 三角柱構造を取り出すことを目的として、クラスターに対してテトラメチルチオ尿素を作用させたところ、骨格構造が大きく変化し、八つの鉄を立方体型に配列した[8Fe-6S]クラスターが生成した。また、三角柱型クラスターとPPh3の反応からも、同様の[8Fe-6S]骨格を有するクラスターが得られた。一方、チオラート塩NaSTipを反応させた場合には、Naを対カチオンとするキュバン型[4Fe-4S]クラスターへと骨格が変換された。
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