本研究では、巨大開口部をもつC60誘導体の内部空間に、酸素官能基をもつメタノール分子およびホルムアルデヒド分子の導入を検討した。メタノールは常温常圧において液体であるため、N2やCO2の場合でうまくいった気相高圧条件ではなく、溶液系での導入に取り組んだ。すなわち、17員環の開口部をもつ開口体を含むクロロベンゼン溶液に少量のメタノールを添加し、9000 気圧の高圧下、150 ℃で加熱することにより、メタノール分子を60% 内包した開口体を合成することに成功した。メタノール分子の導入においては、高温高圧条件は必須であり、低圧 (2000 気圧) あるいは低温 (100 ℃) 条件下では内包率は著しく低下することがわかった。さらに開口部のカルボニル基の一つをアルコールへと還元することにより、開口部にストッパーを設けることを利用することによって、ホルムアルデヒド分子を内包させ、常温常圧下、安定に取り扱うことが可能であることを見出した。HPLCを用いてこれらの内包体の単離精製をおこない、1H NMRのケミカルシフトおよび理論計算の結果を組み合わせることで骨格内部での小分子の配向に関する考察をおこなった。その結果、ホルムアルデヒド分子はメチレン部位を開口部に向けている一方、メタノール分子はCH―π相互作用の寄与によりメチル基をフラーレン骨格に向けて配向していることが示唆された。X線構造解析より、固体状態においてそのような配向が形成されていることが明らかとなった。また、メタノール分子およびホルムアルデヒド分子の内包の動的挙動に関して、密度汎関数法による詳細な検討を加えた。
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