研究実績の概要 |
生体内の様々な物質変換や電子伝達系において電子およびプロトンの授受を媒介する重要な役割を担っているNADHは、ジヒドロピリジン骨格の4位水素のC-H結合が非常に強固であるために活性化障壁が大きく、酵素の働きに頼らない実験系においての利用は難しい。本研究はジヒドロピリジンの4位水素を活性化する新たな手法を開発することで、高い反応性と選択性を併せ持つ感応性化学種を創生することを目指している。ジヒドロピリジンの酸化体であるピリジニウムラジカルまたはピリジニウムカチオンがジヒドロピリジンと向かい合った場合、両分子間には酸化還元反応に基づいた相互作用が働くことが予想される。このときドナー側であるジヒドロピリジンの4位水素は活性化する可能性がある。そこでジヒドロピリジンとピリジニウムカチオンが向かい合うようにして一分子とした化合物を設計した。これまでに逐次的な手法によって全10段階、全収率17%で目的とする化合物の合成を達成することができた。この際に課題になったのは還元時のプロトンの付加位置である。ピリジニウムカチオンの反応中心は2,4,6位の3ヶ所であり、4位のみの選択的な反応を実現するには2,6位に立体的に嵩高い置換基を導入する必要があった。フェニル基を2,6位に導入したものでは選択性はなかったものの、メシチル基に代えたものでは選択性が飛躍的に向上した。二次元NMRおよび単結晶X線構造解析から4位水素がサンドイッチされた立体配座をとることを確認することができ、目的の構造を単離することに成功したといえる。酸化還元挙動、温度可変NMRから4位水素について調べたところ、対面した酸化体ユニットからの電子的な影響を確認した。
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