本研究は配位子の自由度が有機金属錯体の外部刺激感応性に与える影響を解明し、①狭小制限場(自由度小、感応性小)および②自在可変場(自由度大、感応性大)における独創的な分子変換反応の開発を目指し展開させてきた。平成27年度までには①において低原子価ニッケル/N-ヘテロ環状カルベン錯体が呈する基質サイズ感応性を利用したケイ素立体化学の高度精密制御と②において熱刺激感応性カルベン-ボラン錯体を合成し、安定な酸塩基付加体と高反応性分子会合状態との自在スイッチング、を達成してきた。平成28年度においては①に関して、ニッケル/キラルN-ヘテロ環状カルベンが創り出す狭小キラル空間におけるシクロブテンの高光学選択的な構築方法の開発、およびアルデヒドとアルケンの光学選択的多成分カップリング反応を開発した。これにより、有用化合物への迅速かつ高効率的なアクセス手法を確立させた。②に関して、前年度に合成した新規N-ヘテロ環状カルベンであるPoxImとホウ素ルイス酸から成る熱潜在性ルイス酸-塩基付加体 B-Pox からの高反応性分子会合状態再生に関する機構研究を進めた。特に、高反応性分子対が実験的に確認しにくい化学種であることをふまえ、理論計算を中心とした機構解析を行った。また、B-Poxを用いた二酸化炭素の活性化と変換を見出し、二酸化炭素を直接的かつ効率的に非対称カルボニル類へ誘導できることを見出した。 これらの研究を通して、外部刺激応答性金属錯体を設計するための指針を見出し、特に熱刺激を利用した触媒的分子変換反応の開発を複数達成した。また、機構研究を通して、多機能性官能基を導入したN-ヘテロ環状カルベンの挙動を明らかとし、今後の応用研究へのきっかけとした。
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