研究領域 | 感応性化学種が拓く新物質科学 |
研究課題/領域番号 |
15H00950
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
金川 慎治 九州大学, 先導物質化学研究所, 助教 (20516463)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 外場感応性 / ハイブリッド分子 / 磁気的挙動 / 電気伝導性 / 光応答性 |
研究実績の概要 |
本研究では「感応性化学種」と「分子の融合、機能の融合」をキーワードに、電子の織りなす磁性、電導性、誘電性といった物性が外場に対して共同的に感応する革新的複合機能性錯体の創成することを目的とする。特に光感応性磁性と電気的特性を融合したハイブリッド分子系での新機能分子集合体を開拓する。 本年度は、本課題開始時点までに得られていたアニオン性鉄スピン転移錯体の配位子に対して各種置換基を導入し、類似の構造を有しながらスピン転移挙動の異なる外場感応性アニオンの開発を行った。加えてこれらのアニオン錯体と有機導電分子を電解結晶化法によって複合化し、得られたハイブリッド分子集積化合物について構造、物性評価を行った。実際に合成に成功したハイブリッド分子の中でも、有機導電分子としてTMTSFを用いた系において、光応答性スピン転移半導体や高スピン半導体が得られた。また、金属配位子の置換基にフェニル基を導入したスピン転移アニオンを用いた場合、二次元電導層を形成することで知られるETやBOとのハイブリッド化合物が得られることを新たに見出した。これらにおいては、磁気測定で明確なスピン転移挙動は観測されなかったが、電気伝導性においては金属伝導性(BO塩)や電導挙動の相転移(ET塩)が観測された。 これらの結果は、様々な配位子や電導分子の組み合わせによって、スピン転移TTF系導電体が得られることを示しており、新たな化合物群としてその物性に大いに期待できるものと考えている。特に、ETとの塩はさらに類似の化合物を検討することで、超電導などの優れた電子機能を開拓へとつながり、次年度以降の研究への礎となる物質である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度の合成実験によって、様々な置換基を導入したアニオン性鉄スピン転移錯体を得ることに成功し、これらを用いることでTTF系電導性分子とのハイブリッド分子集合体が期待通りに得られることが明らかとなった。中でもETとのハイブリッド化合物が得られるアニオン分子系として、フェニル基を導入した配位子を見出したことは、次年度以降の物性開拓研究にとって重要であるといえる。加えて、今回配位子に導入した置換基であるフェニル基はさらに位置選択的に様々な置換基の導入が可能であり、アニオン性鉄錯体の電子状態や分子間相互作用の設計等に展開可能である。このような分子設計に自由度の高い系は、特に機能性分子の物性開拓に有用であり、目的とする物性発現に期待できるといえる。一方で、これまでに得られたETとのハイブリッド系では磁気的な動的挙動は観測されておらず、アニオン性鉄錯体は測定温度領域で低スピン状態であった。この問題点は鉄錯体の配位子の置換基導入によって配位子場の調整を行うことで解決できるものと考えており、今後の検討すべき課題と問題点を本年度行った研究によってより明確にすることができたといえる。
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今後の研究の推進方策 |
本研究課題の今後の推進方策として以下の点を計画している。 1.アニオン性鉄スピン転移錯体の配位子への置換基導入:本年度の検討により、各種アニオン性スピン転移錯体を効率よく合成することができるようになった。中でもフェニル基を導入した配位子を用いた系を重点的に検討し、特にハロゲン導入等により鉄周りの配位子場の強さを調整することでスピン転移温度の調節を検討する。 2.分子電導層と錯体アニオン分子間への相互作用の導入:外場感応性のアニオン性鉄スピン転移錯体における構造変化や磁性変化と電気伝導性を強くカップリングさせるために、分子間相互作用の検討を行う。実際には1.の置換基導入により同時に達成できると考えている。 これらの点の検討により、TTF系分子からなる磁性―導電性複合機能性分子集合体の一群を多数合成し、構造と物性評価を行うことで、目的とする超伝導性や光感応性を開拓する。研究の実施に当たっては数多くの合成検討、物性測定が必要であることから、研究室所属の学生と協力して推進する。
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