研究領域 | 感応性化学種が拓く新物質科学 |
研究課題/領域番号 |
15H00956
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研究機関 | 大阪市立大学 |
研究代表者 |
岡田 惠次 大阪市立大学, 大学院理学研究科, 教授 (50152301)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | π電子系化合物 / ラジカル / ラジカルイオン / 磁性 / 磁気相転移 |
研究実績の概要 |
申請者はこれまでパイ電子系電子供与体(パイ電子ドナー)に安定ラジカル種を導入した安定ラジカル置換ドナーを合成し、それを一電子酸化することにより、安定ラジカル置換パイ電子ドナーラジカルカチオン種を開発し、そのものが低温でフェリ磁性体に磁気相転移することを見出している。そのような化学種および物性の発現は大変希であることから、本研究ではパイ電子ドナーと安定ラジカルの組み合わせを広く検討することとした これまでにパイ電子ドナーとしてトリオキシトリフェニルアミン(TOT)を合成し、そこに安定ラジカルであるニトロニルニトロキシド(NN)を導入し、TOT部を酸化することによりラジカル置換TOTラジカルカチオン種(NNTOT-GaCl4、GaCl4は反磁性のアニオン種)を合成し、そのものが大きな分子内強磁性的相互作用を示すことを明らかにし、低温で弱強磁性体に磁気相転移することを明らかとしている。本年度は対アニオンとしてスピンをもつFeCl4塩(NNTOT-FeCl4)を合成することによりコンパクトな構造中に三種類(ラジカル種、ラジカルカチオン種、対アニオン)のスピンを導入し、結晶構造、分子配列、磁化率、比熱の測定等からその物性を明らかにした。結果として、NNTOT-FeCl4はNNTOT-GaCl4塩と同様に弱強磁性体に相転移(TN(1) = 2.86 K)した後、鉄が強磁性的に関与する段階を経て最終的に反強磁性体に磁気相転移する(TN(2) = 0.78 K)ことを明らかとした。 また、申請者らは、最近、パイ電子ドナーに安定ラジカル種を導入するためのクロスカップリング反応の手法を開発している。この反応の適用範囲を広げるため、さらなる安定ラジカル金属錯体の開発を行った。その結果、N-ヘテロ環状カルベンを配位子とするニトロニルニトロキシド―金錯体が有効であることを見出した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ニトロニルニトロキシド導入型トリオキシトリフェニルアミン(NNTOT)の酸化による四塩化鉄塩(NNTOTFeCl4)の合成は順調に進み、その構造はGaCl4塩と同じ空間群に属し単位格子の大きさや分子配列も極めて良く似ていた。NNTOTFeCl4 の磁気相転移はGa塩とほぼ同様な温度で弱強磁性体への磁気相転移が観測され、さらに温度を下げるとFeイオンが強磁性的に関与してくるが、最終的に反強磁性的へと磁気相転移することを明らかにした。このような逐次相転移は合金ではわずかに観測されているものの、分子磁性体では観測されておらず、珍しい物性を明らかにすることができた。 また、パイ電子ドナーへの安定ラジカルの導入法の開発は、今後、新規なパイ電子ドナーに安定ラジカルを導入する際に有用である。
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今後の研究の推進方策 |
パイ電子ドナーの開発は本研究の鍵である。特に、1)酸化の可逆性に優れ、2)平面性の高いパイ電子ドナーは興味がもたれる。また伝導性を有するパイ電子ドナーラジカルカチオンの開発も重要である。これまでと同様にそれらのπ電子ドナーに安定ラジカルを導入し、その酸化体の構造、分子配列、安定性、磁性、伝導性等の物性を検討する。 また、これまでと同様にπ電子系化合物に安定ラジカルを導入するための安定ラジカル-金属錯体の開発を続ける。
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