以前に我々の研究室では、遷移金属上の配位子であるシリル基が、ホルムアミドの C=O 基の酸素原子に、またチオホルムアミドの C=S 基のイオウ原子に転位する反応を引き金として、C=O 結合あるいは C=S 結合を選択的に切断する反応を見出した。また、反応機構については遷移金属カルベン錯体を経由していることを提案した。 今年度は、鉄、モリブデン、タングステンのメチル錯体を触媒前駆体として、ヒドロシランとイソシアナト (RN=C=O) あるいはイソチオシアナト (RN=C=S) との反応を検討した。その結果、イソシアナトとの反応では C=O 結合切断が起こり、イソニトリルとシロキサンが生成し、イソチオシアナトとの反応では C=S 結合切断反応が進行して、イソニトリルとジシラチアンが生成することが分かった。いずれの反応においてもモリブデン錯体が触媒活性を示すことが分かった。反応機構の考察により、遷移金属上のシリル基がイソシアナトの酸素原子に、またイソチオシアナトのイオウ電子に転位することにより反応が進行することを提案した。また鉄錯体とイソチオシアナトとの反応により、触媒反応の中間体に相当する鉄にイソニトリルとシリルチオラート基が配位した錯体の単離ならびにX線構造解析に成功した。また、この単離した鉄錯体とヒドロシランとの反応により、イソニトリルとジシラチアンが生成することも確認した。これより我々が提案している反応機構により反応が進行していることが裏付けられた。
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