研究実績の概要 |
本研究は、単結晶X線回折法によるフロンティア軌道の観察法の開発をターゲットにしたものである。 今年度は、これまで以上に高精度な回折データを収集することで、π軌道の分布を観測し、化合物の結合状態および電子構造を実験的に明らかにすることを中心に研究を行った。 具体的には、(1) 1,2-ジゲルマベンゼンの結合状態(SPring-8利用)、(2) チオアロイルカチオンにおけるC≡S+結合の寄与を、実験的電子密度分布解析から明らかにした。 (1)の系で、当初Ge間の多重結合性と共鳴について議論できるものと考えていたが、SPring-8を利用した高精度のデータを用いて解析を行うと、Ge間は単結合であり、Geはゲルミレンの性質が高いことが分かった。現在、この現象に一般性があるのか検討している。 (2)では、1980年のOlahらによる報告依頼、Ar-C+=SとAr=C=Sの極限構造で記述されると考えられていた、チオアロイルカチオンについて、詳細な電子密度分布解析を行った。この結果、Ar-C間に明確にin-plane、C-S間に、out-of-plane, in-plane両方のπ軌道をそれぞれ観測した。これにより、炭素同族体のアロイルカチオンと同様に、チオアロイルカチオンにおいても、Ar-C≡S+の寄与が大きく、Ar-C+=Sの寄与が小さいことを明らかにした。 また、当該新学術領域研究参加研究者と小員環ケイ素化合物の結合状態解析や、ジシレン化合物の構造変化に伴う電子状態変化について分子軌道分布を実験的に観測し検討を行った。
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