可溶性一酸化窒素還元酵素(P450nor)の反応機構を理解するために、前年度に構築した紫外光照射により一酸化窒素(NO)を定量的に放出するケージドNOを用いた反応系を利用し、P450norの結晶試料中でのNO還元反応(2NO + NADH + H+ →N2O + H2O + NAD+)の観測を試みた。そのために、P450norの結晶試料にケージドNOとNADHを浸潤させ、紫外光照射により反応を開始させた。これまでに開発したきた結晶試料に適用可能な時間分解可視吸収計測装置を用い、P450nor結晶試料での酵素反応を追跡した結果、溶液試料の場合と同様に、活性部位のヘムが鉄3価の休止状態に、NOが結合したNO結合型、NO結合型がNADHにより二電子還元された中間体を経て、酵素反応が進行することがわかった。しかし、NO結合型および中間体の生成速度は、溶液試料の場合と比べて、結晶試料では2から3桁程度遅くなっていることが判明した。これらの情報を基盤に、X線自由電子レーザー施設SACLAを利用した時間分解X線結晶構造解析によって、P450norの反応途中にみられる化学種の構造解析に取り組んだ。SACLAでの構造解析には、微結晶を送液し、X線照射部位にフレッシュな結晶を供給するシリアルフェムト秒X線結晶構造解析(SFX)を用い、ケージドNOを利用した光駆動反応系と組み合わせることで、時間分解構造解析を行った。その結果、P450norの酵素反応における最初のステップであるNO結合型の構造を室温条件で決定することができた。また、NO結合型の次にみられる中間体は、結晶中において秒のオーダーの寿命をもつため、紫外光照射による反応開始後数秒の間に、結晶試料を凍結させることで、中間体を補足することができた。現在、補足した中間体の構造解析に取り組んでいるところである。中間体の構造が明らかになれば、P450norの反応機構を立体構造を基盤に理解することができる。
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