研究実績の概要 |
本研究は、ニッケル-炭素結合機能の詳細解明と、高効率なニッケル錯体触媒の開発を目指す。これまでの検討により、カチオン性ニッケルアリル錯体が、ニッケル-炭素結合を活性点として、オレフィンのヒドロシリル化反応を効率よく触媒することを見出している。本年度は、DFT法(M06)により、モデル反応としてEt2SiH2による1-ブテンのヒドロシリル化反応の機構解析を行った。本反応は、錯体反応場における段階的なSi-H結合切断、Si-C結合形成を経て進行する。また、Si-H結合切断、Si-C結合形成、いずれの段階においてもケイ素原子とニッケルが2.4-2.8オングストロームと一定の距離を保ちながら進行する。また、隣接するアリル基がケイ素と相互作用することで、高配位ケイ素を経由して反応が進行することを明らかにした。したがって、本反応過程は、一般的な酸化的付加・還元的脱離を経由しないことが示された。このような特異な反応機構は、カチオン性のニッケル中心と電子陽性なケイ素の電子反発を避けた結果によるものと、現段階では考えている。 本年度は、ニッケル錯体のさらなる機能開拓に取り組んだ。その結果、ビス(アセチルアセトナト)ニッケル(II)が、ニトリル化合物のヒドロホウ素化に触媒活性を示すことを見出した。本反応は、既にモリブデン触媒(Nikonov et al, Chem. Commun 2012, 48, 455)、マグネシウム触媒(Hill etal. Chem. Sci. 2016, 7, 628.)、ルテニウム触媒(Szymczak et al, J. Am. Chem. Soc. 2015, 137, 12808.)を用いても進行することが既に報告されているものの、本反応は安価なニッケル塩を用いることが可能となる点で極めて興味深い。
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