放射性物質の循環プロセスの解明と長期的なモデル化のためには、森林内の放射性Csの実態把握とともに、森林管理や除染活動による影響を考慮する必要がある。特に、皆伐や間伐により林内の光環境が改善することで、地温の上昇や土壌水分量が変化し、放射性Csの形態に影響することが予想される。本研究では、福島県川内村の試験林において、各処理区(①皆伐・落葉除去区、②間伐・落葉除去区、③間伐区、④対照区)の地温、土壌水分量及び土壌呼吸量の測定と形態別放射性Csの分析を行い、森林管理が土壌環境と土壌中の放射性Cs動態に及ぼす影響を評価することを目的とした。 地温に関しては、冬の温度差は小さいものの、春から夏にかけて皆伐区で有意な上昇が認められた。これを反映して、年間土壌呼吸量は皆伐区(1630 gCO2/m2)で他の処理区(1211-1280 gCO2/m2)と比較して有意に高く、より多くの土壌有機物が分解されたと考えられた。土壌水分量に関しても、皆伐区で低く、乾湿の差が増大している傾向にあった。一方、水溶態(水抽出)放射性Csの抽出率は、対照区(0.2%)と比較して、間伐区で約10分の1(0.02~0.03%)、皆伐区で100分の1(0.002%)と大きく低下しており、交換態(酢酸アンモニウム抽出)放射性Csの抽出率も対照区(5.0%)の約3分の1(1.1~1.8%)であった。また、重液を用いた比重分画後に交換態の分析を行なったところ、全放射性Cs濃度は比重1.0-1.6の画分が最も高いにも関わらず、交換態の抽出率は比重1.6以上の画分で高いことが明らかとなった。これらのことから、森林除染(皆伐)後は土壌の乾湿の増大やリターの供給がなくなることにより土壌中の放射性Csの可動性は低下することが示された。また、土壌有機物の分解により放射性Csが放出されても速やかに鉱物に吸着することが示唆された。
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