研究領域 | 福島原発事故により放出された放射性核種の環境動態に関する学際的研究 |
研究課題/領域番号 |
15H00972
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研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
吉村 千洋 東京工業大学, 理工学研究科, 准教授 (10402091)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 放射性セシウム / 阿武隈川 / 存在形態 / 溶出機構 |
研究実績の概要 |
本研究では、底泥浮遊砂の物理化学的分離・溶解処理、放射性セシウム溶出特性、高度化学分析、微細藻類摂取モデルを組み合わせ、水環境中での放射性セシウム化学形態を明らかにすることを目的とする。この目的達成のため3つの課題を設定した。平成27年度では,課題1「河川・河口域底泥浮遊砂の網羅的分離・溶解処理と放射性セシウム溶出特性」を中心に実施した。比重分離や化学溶解等の多様な物理化学的処理を実施し、底泥浮遊砂からの放射性セシウム溶出特性を調べた。その結果,阿武隈川底質・浮遊砂粒子中の有機炭素・窒素含有量と放射性セシウム含有量に正の相関が見出された。そこで,過酸化水素を用いて粒子中の有機物の酸化除去処理を施した。しかし,処理後においてもしても放射性セシウム含有量に変化はなく,セシウムへの有機物吸着は見られなかった。続いて,BET法により鉱物粒子の比表面積を測定し,有機炭素含有量,放射性セシウム量と比較した結果,両者とも比表面積と正の相関を示した。従って,比表面積の大きい粘土性鉱物粒子は有機物と放射性セシウムを多く含むことから,有機炭素と放射性セシウムの間に相関があることが示唆された。比重分離実験から,特に比重2.0以下の試料において有機炭素含有量と放射性セシウム量に強い正の相関が確認された。このことは,比重2.0以下の試料において,無機物粒子へのセシウム吸着と有機物吸着が同程度に生じていることを示唆する。粒子の鉱物組成を明らかにするためXRD分析を行った結果,明瞭なピークは見られず,雲母等の結晶性鉱物は高い割合で含まれていなかった。しかし,この結果は,微量で含まれる放射性セシウムが結晶性粘土鉱物に取り込まれていないという結果を排除するものではない。実際に,非結晶性酸化物を除去するための種々の処理を行ったところ,放射性セシウムの溶出は見られなかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
現在までの達成度は,おおむね順調に進展していると判断する。今年度の研究計画と目的は,課題1「河川・河口域底泥浮遊砂の網羅的分離・溶解処理と放射性セシウム溶出特性」を中心に実施し,比重分離や化学溶解等の多様な物理化学的処理を実施することで、底泥浮遊砂からの放射性セシウム溶出特性と放射性セシウム化学形態の関連性を明らかにすることであった。9. 研究実績の概要で示したように,今年度の研究目的はおおむね達成されたと判断でき,研究計画は順調に進展している。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究の推進方策として,平成28年度では,課題2「底泥浮遊砂の無機有機組成・鉱物・モフォロジー分析」を実施し,物理化学的分離・溶解処理に供した試料ならびに未処理試料について、多方面からの高度化学分析を実施し、表面モフォロジーや、表面積、有機物分子組成、鉱物組成等を明らかにする。さらに,課題3「水環境中での粒状態放射性セシウムの存在形態・溶出特性・生物利用性の関係性解明」を実施し,物理化学処理による放射性セシウムの溶出特性や微細藻類セシウム摂取モデルを用いた解析等を総合的に評価することで、水・底泥環境中での放射性セシウムの吸着・溶出特性、生物利用性の関係性についての普遍的な知見の産出を図る。
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