本研究では、阿武隈川での底質・浮遊砂に含まれる放射性セシウムの存在形態と溶出動態を明らかにすることを目的とした。これまでの調査結果から、底質・浮遊砂中の粒状態有機物含有量と放射性セシウム濃度に正の相関性が確認されていた。そこで、比重分離操作により底質試料を有機物含有量の大きく異なる分画に分け、C/Nならびに安定同位体分析により、セシウム濃度と有機物起源の関連性を調べた。その結果、比重2.0以上の分画は自生有機物(河川付着藻類等)を多く含み、セシウム濃度と有機物含量に正の相関が見られた。一方で、比重2.0以下の分画は他生有機物(陸由来植物等)を多く含み、必ずしもセシウム濃度と有機物含量に相関を示さなかったが、土粒子比表面積とセシウム濃度には相関がみられた。さらに、過酸化水素処理により有機物分を除去した結果、底質試料中の放射性セシウム濃度は減少しなかった。さらに、クエン酸や還元剤等を用いた化学処理により底質試料中の非晶質を除去した後においても放射性セシウム濃度は大きく減少しなかった。以上の結果は、河川底泥中の自生有機物には表面積の大きく化学的安定性の高い無機微粒子が含まれ、このような無機微粒子にセシウムは取り込まれていることを示唆する。つまり、福島原発事故から1.5年-4年後に阿武隈川で採取された底泥試料中の放射性セシウムは、結晶性鉱物など化学的安定な無機粒子に取り込まれ、河川水中におけるセシウム溶出は比較的小さい可能性を示している。
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