研究領域 | 福島原発事故により放出された放射性核種の環境動態に関する学際的研究 |
研究課題/領域番号 |
15H00973
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研究機関 | 富山大学 |
研究代表者 |
張 勁 富山大学, 大学院理工学研究部(理学), 教授 (20301822)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 汽水域 / 放射性セシウム / 溶脱 / 海底地下水湧出 / 自然浄化 / 松川浦 |
研究実績の概要 |
2011年に発生した福島第一原子力発電所事故によって,大量の放射性核種が環境中に放出された。陸域に沈着した放射性セシウム(以下,Cs)は,現在もなお河川を通じて海洋に供給されている。汽水域は陸域と海洋を繋ぎ,物理化学環境が急変する場であることから,河川や地下水を通じて沿岸域に輸送される物質は,環境変化に伴う種々のプロセスや生物活動等の変化の影響を大きく受ける。そのため,陸から海洋への物質輸送を量的・質的に評価するためには,汽水域で生じているプロセスの理解が欠かせない。本研究では,これまでの結果を踏まえたうえで,汽水域におけるCsの吸脱着プロセスを明らかにするとともに,起源として海底地下水湧出も視野に入れた「河川―汽水―海洋」の系におけるCs移行プロセスを明らかにし,海域へ移行する詳細なCsフラックスの推定を目的としている。 福島県相馬双葉漁業協同組合松川浦支部と連携して現場観測を2015年4月,5月,7月及び2016年1月に行った結果,以下のことが明らかになった。1)粒子態Csは塩分の上昇に伴い急激に濃度が減少することから,多くが低塩分域で沈降・堆積する;2)溶存態Csは非保存成分として存在し,河口域の低塩分帯で懸濁物質から溶脱する;3)O-18とCsの関係から汽水域への溶存態Csの源は,河口域の低塩分帯での溶脱と高塩分域での海底地下水湧出の一種である再循環水の流入に区別できた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
初年度は福島県相馬双葉漁業協同組合松川浦支部と連携して現場観測に重点を置いた。その結果として,1)粒子態Cs濃度は塩分の上昇に伴い急激に減少するため,多くが低塩分域で沈降・堆積する;2)溶存態Csは塩分の上昇に伴い急激に増加するため,非保存成分として存在し,河口域の低塩分帯で粒子から溶脱する;3)O-18及び栄養塩濃度から,海底地下水湧出の一種である再循環水が松川浦に存在している;4)O-18とCsの関係から汽水域への溶存態Csの源は,河口域の低塩分帯での溶脱と河口域の高塩分帯での再循環水の流入に区別でき,汽水域におけるCs収支には海底地下水湧出も寄与することが示唆された。
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今後の研究の推進方策 |
平成28年度は,実験室での室内実験に重点を置きつつフィールドでの観測調査も並行して行う。 室内実験では,採取した沈降粒子・懸濁物・底質試料の粒度分析及び水の化学成分分析を行うことにより,試料のCs濃度の差が粒径や粒子の物性及び水の化学成分に依存する度合いを明らかにし,粒径や粒子成分と水の塩分・pH等の条件を変えてCsの吸脱着に与える影響を解析する。また,沈降粒子・懸濁物・底質試料及び生物試料の炭素・窒素安定同位体比解析を併せることで,食物網を含めたCsの動態把握を行う。フィールドにおける観測調査では,幅広い塩分変化・勾配がある福島県相馬市松川浦とその周辺河川系を引き続きモデルケースとし,センサーによる現場観測や,水試料・懸濁物・底質試料及び生物試料を採取し,Csの分布挙動の時空間変動の要因を明らかにする。また,富大式フラックスチャンバーを係留し,塩分及び水温の観点から海底地下水湧出の事象を把握すると同時に,海底地下水湧出量を計測し,海底地下水湧出に起因する汽水域へのCsフラックスの算出を試みる。
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