2011年に発生した福島第一原子力発電所事故によって,大量の放射性核種が環境中に放出された。陸域に沈着した放射性セシウム(以下,Cs)は,現在もなお河川を通じて海洋に供給されている。研究対象域である汽水域は陸域と海洋を繋ぎ,物理化学環境が急変する場であることから,河川や地下水によって沿岸域に輸送される物質は,環境変化に伴う種々のプロセスや生物活動等の変化の影響を大きく受ける。そのため,陸域から海洋への物質輸送を量的・質的に評価するためには,汽水域で生じているプロセスの理解が欠かせない。本研究ではこれまでの成果を踏まえ,起源として新たに海底地下水湧出(Submarine Groundwater discharge:以下,SGD)も視野に入れた「河川―汽水―海洋」の系におけるCs移行プロセスを明らかにし,海域へ移行するCsフラックスの推定を目的とした。
福島県相馬双葉漁業協同組合松川支所と連携して現場観測を2016年10月及び2017年3月に行った結果,以下のことが明らかになった。1)塩分・水温の時系列モニタリング結果及び堆積物間隙水の塩分から,松川浦南西部にはSGD-潮汐応答に伴う再循環水が存在する;2)堆積物間隙水に含まれるCs-137濃度は直上水より高く,堆積物から間隙水にCsが脱離している;3)ボックスモデルによって,湖底起源の溶存態Cs-137フラックスは松川浦へのCs-137流入の9割以上と推算し,Cs収支を考える上でSGDの存在が重要であることが判明した。
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