研究領域 | 福島原発事故により放出された放射性核種の環境動態に関する学際的研究 |
研究課題/領域番号 |
15H00975
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
福島 和彦 名古屋大学, 生命農学研究科, 教授 (80222256)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | セシウム / 安定同位体 / 放射性同位体 / ICP-MS / TOF-SIMS |
研究実績の概要 |
放射性核種、特に多量に放出され、半減期の長いセシウムは東日本全域に広く影響を与え続けることが予想される。放出後の循環過程に対する知見が不足しているため、生態系においてどのような経路をたどるのか予測することは難しく、その動態解析と対策立案は喫緊の課題である。本研究では、樹木に対するセシウムの蓄積と移動、ならびに既にセシウムを取り込んだ樹木の利用について、それぞれ研究を行う。セシウムの挙動とその性質とを明らかにした上で、効率的な除去方法について考案・実証し、セシウム含有木材の効率的利用へと繋げる。初年度では以下2項目について重点的に研究を推進した。 1)セシウムの植物中成分に対する吸脱着挙動 樹木中のセシウムがどのようなメカニズムで輸送され、最終的にどのような化学形態で沈着しているのかは未だ不明名点が多い。まず様々な植物試料を用いて多段階の抽出実験を行い、得られた結果を無機金属間で比較することによりセシウム特有の挙動を調査した。結果より、植物の部位による輸送挙動の違いや、抽出に対する安定度の違いなどが明らかになった。また植物組織の生育段階によってもセシウムの沈着挙動は大きくことなることが確認された。 2)パルプ工程におけるセシウムの挙動解析 セシウムは樹木中に沈着し、その濃度は上昇傾向にあることが報告されている。セシウムを多量に取り込んだ樹木について、セシウムを除去しつつマテリアル利用する方法を模索することは重要である。本実験では樹皮にセシウム水溶液を塗布し、内部へ浸透させたスギを用いてクラフト蒸解パルプを作製し、蒸解パルプ化工程におけるセシウムの移動を追跡した。結果より、得られたパルプ繊維にはほとんどセシウムは残留していないことが確認された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
初年度の研究計画であったセシウムの植物中成分に対する吸脱着挙動ならびにパルプ工程におけるセシウムの挙動解析について、それぞれある程度の成果を得ることができた。1)セシウムの植物中成分に対する吸脱着挙動 については各種試料の化学的キャラクタリゼーションが完了しておらず、今後検討を続ける予定である。2)パルプ工程におけるセシウムの挙動解析では、さらに工場での実際の試料・試薬のフローを見越して、セシウムの効果的な濃縮プロセスが提案できるよう、検討を続ける予定である。 以上のように、得られた結果から新たな課題も発生しているが、前進的な成果が得られていることから、おおむね順調に進展しているものと判断した。
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今後の研究の推進方策 |
引き続きセシウムの樹木表面および内部における移動メカニズムとその化学形態に関して調査する。またパルプ化工程等におけるセシウムの挙動を詳細に分析し、その制御を試みる。
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