ヘリセンはねじれた多環芳香族π電子系とラセン不斉の特徴を併せ持ち,既存の平面系化合物とは異なる性質と機能を発現すると期待される.当研究室では [4]ヘリセンの100 g単位の合成法を開発し,ヘリセンに特有の現象を示して来た.本研究では,ヘリセンオリゴマーが示す非平衡熱力学現象を取り上げた.この基礎として,アミノメチレンヘリセンオリゴマーの擬鏡像体混合物が溶液中でランダムコイルA、左ラセン二重ラセンB、右ラセン二重ラセンCの三状態間で構造変化することを示した.本年度はBとCの形成反応が熱履歴によって切り替えられることを見出した.具体的には,Aの70 ℃の溶液を直接25 ℃に冷却すると,Bが優先して形成した後に,60時間かけてCへの構造変化が進行した.一方,Aの70 ℃の溶液を-25 ℃で冷却した後に,25 ℃に昇温すると,4時間後に全ての分子がCを形成した.ここで,速度論解析あるいは混合実験によって,A→BおよびA→Cのいずれの反応も自己触媒的に進行することを示した.今回の現象は,熱履歴によって25 ℃で僅かな初期状態の違いが生じ,これが自己触媒反応によって増幅されて現れたものと説明した. 本研究では,ヘリセン分子集合体の構造変化も研究対象としている.先に,オキシメチレンヘリセンオリゴマーの擬鏡像体混合物を溶液中5 ℃で静置すると,二重ラセンが固体表面上で自己組織化して繊維膜を与えることを示した.本年度は,同じ溶液を25 ℃で機械的に撹拌すると,溶液中で二重ラセンの集合体が形成することを見出した. CD,AFM解析により,ランダムコイルが固体表面でヘテロ二重ラセンを形成した後に,溶液中に拡散して集合化して,繊維,バンドル構造に変化することを示した.固体表面との接触あるいは機械的撹拌の刺激に応じて,鏡像体の二重ラセン集合体が固体表面上と溶液中でそれぞれ形成することを見出した.
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