研究実績の概要 |
I) [Fe(Cp*)2][{Ru2}2TCNQ]系におけるD2A層状格子のπ軌道制御による電荷秩序相制御 本研究者は、[Fe(Cp*)2]+をピラー部位に用いることで、πースタック型ピラードレイヤー格子(π-stacked PLF)を構築することを見出し、その化合物がTc = 82 Kのフェリ磁性体になることを報告した(Angew. Chem. Int. Ed. 2015, 54, 569-573)。この磁気挙動は、ピラーのスピンにも因るが、D2A層内の電荷移動にも密接に関係しており、その電荷移動・電子移動が磁性体構築の鍵となる。そこで、電子ドナー性の異なる3種類の[Ru2II,II]ユニットを用いることで、[Ru2II,II]-(TCNQ-)-[Ru2II,II]と[Ru2II,II]-(TCNQ2-)-[Ru2II,III]+の2種類の電荷秩序状態を同様な構造で合理的に合成することに成功した。前者は、フェリ磁性体であり、後者はTCNQ2-を含むため、常磁性体になる。これらの電子移動の制御は、用いるDとTCNQのHOMO/LUMOエネルギー差で説明できることが明らかとなった。 II) [M(Cp*)2][{Ru2}2TCNQ] (M = Mn, Cr, Ni)開発と高温磁性体開発 ピラーに[Fe(Cp*)2]+を用いたものでは、Tc = 82 Kであり、それに圧力をかけることによって、12.5 kbarで107 K程度まで相転移温度を上げることに成功した。次に、ピラーとしてスピン多重度の大きい[Cr(Cp*)2]+を用いた同構造の化合物を合成し、大気圧Tc = 89 Kまで相転移温度を上昇させることに成功した。今後圧力下での測定を行う計画である。
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