公募研究
本研究の目的は、従来のような格子系の反転中心の破れに伴う圧電性ではなく、電子系の反転中心の破れに伴い生じる圧電性を利用して、弾性体の機械的変形を効率的に電気系へと変換し、“電子系由来の巨大分極応答”を創出することである。具体的には、BEDT-TTF分子のπ電子軌道が基本物性を決めているBEDT-TTF分子系有機導体の中で、電荷秩序や外部電場印加により電子系に反転中心をもたなくなった物質群に対して、“機械的応力”を加えることで巨大な分極を創出することを目指している。本研究では、まず、①室温からヘリウム温度までの幅広い温度域に渡って、単結晶試料に加える応力とひずみを精密に制御できるシステムを構築し、その上で、②電子系に反転中心をもたない物質群が圧電性により大きな分極を生じるかどうかを、光学測定や分極測定、またTHz波発生の観測などを通じて明らかにすることを目指している。そこでまず当該年度は単結晶試料に物理的圧力を印加した上で光学伝導度測定を可能とするため、高輝度放射光施設SPring8においてダイアモンドアンビルセルを用いた反射率測定を行った。研究対象とした物質は圧力印加により超伝導転移を示すβ'-(BEDT-TTF)2ICl2である。この物質は常圧ではBEDT-TTF分子が二量体を形成しておりモット絶縁体となっているが、本研究成果により、この物質では圧力印加によって二量体化の強さが弱まった結果、二量体内の電荷揺らぎが増大し、超伝導がより増強されている可能性が示唆された。この結果は物理的圧力印加により二量体内の自由度を制御できる可能性を示しており、本研究で目指す外部変調操作による電子系の反転中心の破れに対して重要な情報を与えた。
2: おおむね順調に進展している
当該年度はダイアモンドアンビルセルを用いた物理的圧力印加下での光学伝導度測定に加えて、ピエゾ素子を用いた応力・ひずみの精密制御システムの構築も行った。ピエゾ素子を用いた測定手法は十分な試料空間を確保できるため、応力印加下において、構造解析や赤外分光、分極測定、またTHz波発生の観測などの様々な物性測定が可能となる。当該年度に確立された応力・ひずみの精密制御システムを用いて、次年度以降に電子型強誘電体α'-(BEDT-TTF)2IBr2と電場印加によりBEDT-TTF分子の二量体内の反転中心を破ることが可能なダイマーモット絶縁体β'-(BEDT-TTF)2ICl2を取り扱う。
今後は、当該年度に構築した応力印加システムを用いて、分極処理されたα'-(BEDT-TTF)2IBr2に対して、赤外分光および分極測定、またTHz波発生の観測などの物性測定を行い、電荷不均化の定量的評価、圧電効果により誘起される分極の大きさ、THz波発生効率、格子系と電子系の結合の大きさなどを明らかにする。さらに、電場印加によりBEDT-TTF分子の二量体内の反転中心を破ることが可能なダイマーモット絶縁体β'-(BEDT-TTF)2ICl2に対しても、応力印加下で物性測定を行う。
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Physical Review B
巻: 92 ページ: 0854149-1-7
http://dx.doi.org/10.1103/PhysRevB.92.085149