公募研究
ジ(2-フェニルベンゾフラニル)ケトンの還元的カップリングによるテトラ(2-フェニルベンゾフラニル)エテン(TBFE)の合成検討において,一般的な塩化チタンと亜鉛より調製した低原子価チタンによるマクマリーカップリングではTBFEが全く得られなかった.金属塩を検討の結果,チタンの代わりにジルコニウムやハフニウムを用いることでカップリング反応が進行し,目的とする生成物が得られることを見出した.ケトンに対して1.5当量の塩化ジルコニウムと3当量の亜鉛を用い,トルエン中110℃で加熱すると,収率42%でTBFEが得られた.また,同様の条件で,塩化ハフニウムを用いた場合,TBFEの収率は50%であった.さらに,塩化ハフニウムを用い,アセトニトリル中70℃で加熱することで収率は56%まで向上した.得られたTBFEは,環境応答性蛍光材料として発光センサーなどへの応用が期待されるテトラアリールエテン骨格を有しているため,溶液中での光物性評価を行った.その結果,ソルバトクロミズムとベンゾフランユニット由来λ=360 nmの発光を示すことを確認した.これは嵩高い側鎖が自由回転せず無放射失活を抑制することに起因すると考えられる.さらに,THF/H2O溶媒系での蛍光スペクトルにおいて,H2O比の増加に伴い360 nmのピークの消失と510 nmでの凝集誘起発光を示した.分子の集積による共役系の拡大に起因すると考えられる.このように,高い発光性を有する新たなテトラアリールエテンを合成し,そのintrinsicな挙動や,溶媒を加えた際のsynamicな変化を観測した.さらに,TBFEの分子内酸化的縮環反応を検討し,ダブルヘリカル型(∞型)構造を持つと見られる生成物を得ている.
1: 当初の計画以上に進展している
立体的に嵩高い芳香族ケトンのカップリング反応にハフニウムが有用であることを新たに見出した.原子半径の大きさや低原子価金属種の還元力に起因するものと考えている.このような反応性は,当初予想できなかったものであり,π造形のための新規かる強力な合成ツールとなることが期待される.また,最終ステップであるTBFEの酸化的分子内縮環反応において,フラン縮環ジベンゾクリセン骨格の形成とともに,フランのα位のフェニル基同士の分子内カップリングも進行し,研究開始当初では2年目以降に合成を検討していたダブルヘリカル型(∞型)構造を持つ物質の生成がNMR(1H, 13C 1D NMRおよびCOSY)から示唆されている.
前年度に得られたダブルヘリカル型(∞型)構造を持つと見られる生成物の単結晶X線構造解析を行う.分子構造やパッキング,電子状態が大変興味深いが,前年度の検討では少量しか得られなかったため,再合成を行い,構造解析・物性評価に必要な量を得る方針である.また,テトラ(ベンゾフラニル)エテンの酸化的分子内縮環反応において,ダブルヘリカル型を形成する前のフラン縮環ジベンゾクリセンで反応を停止させるための反応条件の検討も継続して行う.同時に,他の合成方法も検討する方針である.具体的には,アルコキシ置換ジベンゾクリセンを先に形成してから,ハロゲン化,オルトメタル化,C-H活性化などの方法による修飾,続く環化反応によって縮環フラン構造を構築していく予定である.
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Nature Communications
巻: 6 ページ: 8458
10.1038/ncomms9458
Bull. Chem. Soc. Jpn.
巻: 88 ページ: 776-783
10.1246/bcsj.20150033