公募研究
研究実施計画に則り、前年度に引き続き、本研究者が開発した水素結合-π電子連動型の純有機伝導体結晶に対する「π造形」研究を行った。本年度は特に、構成有機分子のπ電子系骨格外側のアルキルカルコゲノ基に対する化学修飾(π造形)に着目した。すなわち、分子自身のπ電子構造ならびに分子間でのπ-π相互作用や水素結合相互作用に変調を与えることで、水素結合とπ電子の連動性を変調させ、本物質系の特徴である電子物性スイッチング現象のさらなる理解・探索を目指した。合成検討の結果、母体のエチレンジチオ基の硫黄原子をセレン原子で置換した新規類縁体結晶を得ることに成功した。結晶構造は母体と同形であったが、化学修飾による立体・電子構造変化により、二次元電気伝導層における分子間相互作用に有意な変化が見られ、特に分子短軸方向における相互作用が大きく減少していることが分かった。その結果として、電気伝導性、磁気的相互作用、ならびに電子構造の次元性の低下が観測されたが、母体と同様に極低温まで磁気秩序・相転移は示さず、水素結合中の水素は高温から揺らぎ続けていると考えられる。その一方で、水素結合中の水素を重水素化した化合物においては、母体重水素化体と同様に、重水素の局在化を引き金とする電荷秩序化相転移が観測された。相転移温度は大きく(~ 100 K)低下しており、π電子骨格の化学修飾によって水素結合部のダイナミクスが大きく変化したことが分かった。ただし、水素結合距離には大きな違いが見られていないことから、上述のπ電子間相互作用の変化がこの水素ダイナミクス変化に何らかの影響を及ぼしているものと考えられ、非常に興味深い結果である。
28年度が最終年度であるため、記入しない。
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すべて 雑誌論文 (5件) (うち査読あり 5件、 謝辞記載あり 5件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (19件) (うち国際学会 4件、 招待講演 4件) 備考 (2件)
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