研究実績の概要 |
捩れたパイ共役系分子として、9,18-ビス(アルコキシ)トリベンゾ[f,k,m]テトラフェンを合成し、その構造および光物性を調査した。アルコキシ基は、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基およびブトキシ基を選択した。単結晶中、メトキシ誘導体のペリ位の二面角は16.5°であるのに対し、エトキシ誘導体のそれは19.5°であり、エトキシ誘導体のほうが環の捻れが大きいことがわかった。また、メトキシ誘導体は二分子間でパイ-パイスタッキングしていたが、エトキシ誘導体ではエチル基の立体反発のためか、芳香環どうしのスタッキングは観察されなかった。溶媒2-メチルテトラヒドロフラン中での紫外可視吸収スペクトルおよび発光スペクトル、発光量子収率、さらにはポリスチレンフィルムに分散した状態の発光スペクトルは、アルコキシ基の種類に関わらず、ほぼ同じであった。それに対し、粉末状態での発光スペクトルは、メトキシ誘導体、エトキシ誘導体、プロポキシ誘導体は同じで極大を一つ有するものであったが、ブトキシ誘導体では前者よりも長波長シフトし、しかも極大を二つ有するスペクトルが観測された。しかも、前者の三つの発光寿命はいずれもナノ秒オーダーのみであり、すなわち蛍光発光のみであったのに対し、ブトキシ誘導体ではナノ秒オーダーに加えてマイクロ秒オーダーの発光寿命成分が観測された。長寿命成分が遅延蛍光か、それともリン光かは決定するには至っていないが、パイ平面の捩れの増大が項間交差の促進したのではないかと推測している。
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