公募研究
代表者は、高純度有機低分子材料において従来理論の予測上限値より100倍程度大きいゼーベック係数が現れることを見出した。この巨大ゼーベック効果には熱による分子振動が関与しており、キャリア流と非平衡状態下で分子振動が運ぶ熱流との間にπ電子系特有のカップリングが起こることが原因であると推測されている。そこで、π軌道形状などを系統的に変化させた様々な有機材料について熱電物性および熱物性の精密計測を行い、分子の構造と巨大ゼーベック効果との間の関係性を明らかにするとともに、分子動力学計算と物性理論をリンクさせることによって、現象の理解を進めることを目的とし、研究を進めてきた。H27年度は、π共役系の概形(特に縦横比)や側鎖の有無が異なる様々な分子について、熱電特性および構造の温度依存性を調べ、ほとんどのπ共役低分子固体において出現温度こそ異なるものの巨大なゼーベック係数が出現すること、ならびに、キャリア輸送方向の隣接π骨格間距離および温度の組み合わせに最適値があるらしいことを見出した。さらに、ポーラロン伝導の特徴を十分に取り入れてキャリア輸送を解析することで、従来理論を超える巨大ゼーベック係数が物性論的に説明し得ることを見出した。
2: おおむね順調に進展している
実験・理論両面において、巨大ゼーベック効果のメカニズム理解に着実に近づいている。
昨年度、一部の材料において確認されたゼーベック係数の隣接π骨格間距離および温度依存性をより明確にするために、様々なπ共役低分子固体の結晶構造/格子定数の温度依存性を温度可変二次元微小角入射X線回折法によって調べる。それと、ゼーベック係数の温度依存性から、ゼーベック係数と最も良い相関を示す構造パラメータを抽出し、さらに温度もパラメータとしてゼーベック係数の二次元マッピングを行う。物性論的に巨大なゼーベック係数とその温度依存性を正しく説明するためには、材料に依存する複数の物性パラメータとその温度依存性が必要である。そのうちの一部は実験的に求めることが可能であることから、物性パラメータの温度依存性も取り入れた理論計算を試み、巨大ゼーベック効果に特有の大きな温度依存性を説明することを試みる。また、一部の物性パラメータは実験的に求めることが困難であることから、A03班杉本氏の協力を得て実験で用いた様々な分子における結晶状態での電子輸送パラメータを電子およびフォノンバンドの計算によって求める。さらに、分子固体に特徴的なキャリア輸送に伴う大きな再配向エネルギーも量子化学計算によって求め、材料ごとにゼーベック係数が異なることの定量的理解につなげる。
すべて 2016 2015 その他
すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 1件、 謝辞記載あり 1件) 学会発表 (20件) (うち国際学会 6件、 招待講演 9件) 備考 (2件)
Appl. Phys. Express
巻: 8 ページ: 121301
10.7567/APEX.8.121301
エネルギーデバイス
巻: 2 ページ: 70―78
http://mswebs.naist.jp/LABs/greendevice/research/example.html
http://www.naist.jp/activity/c01_14_34_j.html