研究領域 | π造形科学: 電子と構造のダイナミズム制御による新機能創出 |
研究課題/領域番号 |
15H01001
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
清水 宗治 九州大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (70431492)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 有機π電子系分子 / 芳香族性 / アザポルフィリン / 磁気円偏光二色性スペクトル / 紫外可視吸収スペクトル |
研究実績の概要 |
芳香族性はπ電子系分子の基礎物性である。近年、トポロジカルな芳香族性の定義であるメビウス芳香族性が実証されて以来、従来のヒュッケル芳香族性に加えて、多様な分子が報告されている。一方でその実験的な物性指標はNMRの環電流効果や結晶構造のHOMA値しかなく、汎用的な物性指標の創出はπ電子系分子化学の発展の礎となる重要課題である。吸収スペクトル形状は電子構造の情報を含んでいることから、スペクトル形状と芳香族性との相関を一般化することで、芳香族性の新たな指標になり得る。本研究では解析に最適な分子系の合成と磁気円偏光二色性スペクトル測定を用いた電子状態の解明を行う。分子系としてはさまざまな芳香族性の発現が報告されているポルフィリンのなかでも、吸収帯の帰属が容易なアザポルフィリン類縁体を用いる。また領域内のπ電子系分子についても解析を行い、吸収スペクトルを用いた芳香族性の物性指標の確立に挑戦する。 研究初年度の本年度はメビウストポロジーの構造を単結晶構造解析により明らかにしているp-フェニレンを有する環拡張アザポルフィリン類縁体のメビウス芳香族性について、温度可変NMRおよび吸収スペクトル解析により、研究を行った。またアザポルフィリン類縁体では特異なπ共役面を作り出せることを利用して、テトラチアフルバレンとの複合化により、特異な超分子ポリマーの創出に挑戦した。さらに領域内共同研究において、磁気円偏光二色性スペクトル測定を用いた新規π共役系の電子構造解析を精力的に行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本研究では芳香族性の新たな物性指標を確立するために、①明瞭なQ帯吸収の発現を指向したアザポルフィリン類縁体の合成と②MCD分光法を用いた光吸収特性と電子構造の相関解明を重点課題として行っている。研究初年度である本年は、①では環拡張アザポルフィリンの合成研究を進め、結晶構造解析に成功した分子のメビウス芳香族性・ヒュッケル反芳香族性について、温度可変NMRおよび吸収スペクトルにより研究を展開した。その結果、今回の環拡張アザポルフィリンではメビウス構造を発現するための中心のp-フェニレンが自由回転していることから、明確なメビウス芳香族性・ヒュッケル反芳香族性を示さないことを明らかにした。またNMR計算から、イソインドール環からなる環拡張アザポルフィリンでは外周部のベンゼン環の閉じた芳香族性により、本質的に分子全体に広がった共役サーキットの寄与は小さいことも明らかにした。現在、これらの点を改善し、アザポルフィリン類縁体で明確なメビウス芳香族性を発現させるために、金属錯化や外周部のベンゼン環を含まない分子の合成に着手している。 合成研究においてはこの他にも、アザポルフィリン類縁体の性質を利用した新規な分子系の創出に成功している。なかでも環縮小アザポルフィリンであるサブフタロシアニンのお椀状のπ共役面を利用することで、特異な超分子ポリマーの構築に成功しており、現在、そのナノ分子ワイヤとしての物性評価を行っている。 ②においては今年度は主に領域内共同研究により、新規π共役系の電子構造と吸収特性の相関解明を行い、分子構造に特徴的なMCDスペクトルを観測しており、今後の分子設計につながる成果が得られた。 以上のようにいずれの研究テーマにおいても、大きな進展が見られており、また新たな研究シーズが得られていることから、当初の計画以上に進展していると判断できる。
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今後の研究の推進方策 |
研究初年度において、①ではp-フェニレン部位を含む環拡張型のアザポルフィリン類縁体の合成と構造解析を行っており、温度可変NMRおよび吸収スペクトル解析から、メビウス芳香族性およびヒュッケル反芳香族性に由来すると帰属しうる変化を見出しつつあるが、この系では本質的に芳香族安定化の寄与が小さいために、これらの明確な発現に成功していない。そこで今後は金属錯化による構造を固定化や外周部のベンゼン環の除去により、明確な芳香族性・反芳香族性の発現を試みる。成功すれば、アザポルフィリン類縁体におけるメビウス芳香族性としては初の例になることから、可視領域における強い吸収を利用することで、分光学的な理解と電子構造への考察が飛躍的に進むことが期待できる。 また②においては、研究初年度に共同研究において、ヒュッケル反芳香族性分子であるノルコロール二量体のMCD測定を行い、単量体との比較から、積層構造に由来するスペクトル変化を観測している。今後、さらに理論計算等の結果を考慮して、電子構造について考察を深めたい。 全体として、研究初年度に多くの研究シーズを見出しているので、さらに合成研究を進めることで、アザポルフィリン類縁体の化学を発展させる。
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