公募研究
本研究では、π電子系物質に対し歪み効果を印加可能なシステムを開発することで、物性の向上や既存物質にはない機能の発見を目指すと共に、これを利用したデバイス開発を目的としている。本年度は、"引張り歪み"から"圧縮歪み"までを任意かつ連続的に印加可能な歪み制御型のデバイス評価用プローブの開発を行った。具体的には、ピエゾ素子により駆動するナノポジショナー(押し棒)を用いてプラスチック基板のへ圧力を与えることで、基板の湾曲による歪み効果の連続的印加を可能するプローブを開発した。基板の湾曲による歪みSは、曲げ半径Rと基板の長さL、厚みdを用いて「S=ΔL/LS =d /2R」によって表わされることが知られているが、実際に歪みゲージを用いてほぼこの式に従った歪みを均一に印加できることを確認した。また、実際に強相関π電子系物質であるκ型BEDT-TTF塩を用いてデバイスのプロトタイプを作製し、上記のプローブによる歪み印加実験を行った。デバイスは電界成長させたBEDT-TTF塩の結晶を溶液中においてプラスチック基板に張りつけた後、トップコンタクトにより4端子を配線することで作製した。50~5ケルビンの極低温において電気抵抗測定を行った結果、初期状態において絶縁体であったデバイスは約1 %の圧縮歪みによる超伝導体へと相転移することが確認された。この結果は、磁化測定によるマイスナー効果、シールディング効果の観測によっても裏付けられた。今後は、このプロトタイプデバイスに電界効果トランジスタ構造を作り込むことによって電界効果と歪み効果を同時に印加可能なデバイスを作製すると共に、領域内研究者との連携により様々な物質への歪み効果の印加を試みる。
2: おおむね順調に進展している
本研究では、π電子系物質に対し歪み効果を印加可能なシステムを開発することで、物性の向上や既存物質にはない機能の発見を目指すと共に、これを利用したデバイス開発を目的としている。本年度は、"引張り歪み"から"圧縮歪み"までを任意かつ連続的に印加可能な歪み制御型のデバイス評価用プローブの開発を行った。具体的には、ピエゾ素子により駆動するナノポジショナー(押し棒)を用いてプラスチック基板のへ圧力を与えることで、基板の湾曲による歪み効果の連続的印加を可能するプローブを開発した。基板の湾曲による歪みSは、曲げ半径Rと基板の長さL、厚みdを用いて「S=ΔL/LS =d /2R」によって表わされることが知られているが、実際に歪みゲージを用いてほぼこの式に従った歪みを均一に印加できることを確認した。また、実際に強相関π電子系物質であるκ型BEDT-TTF塩を用いてデバイスのプロトタイプを作製し、上記のプローブによる歪み印加実験を行った。デバイスは電界成長させたBEDT-TTF塩の結晶を溶液中においてプラスチック基板に張りつけた後、トップコンタクトにより4端子を配線することで作製した。50~5ケルビンの極低温において電気抵抗測定を行った結果、初期状態において絶縁体であったデバイスは約1 %の圧縮歪みによる超伝導体へと相転移することが確認された。この結果は、磁化測定によるマイスナー効果、シールディング効果の観測によっても裏付けられた。以上のように本年度は当初の目的である歪み印加型プローブの開発に加えて、デバイスのプロトタイプの作製を行い、歪み効果による相転移現象を観測できており、研究はおおむね順調に進行している。
本年度は、κ型BEDT-TTF塩を用いてデバイスのプロトタイプを作製し、歪み効果による相転移現象を観測することに成功したが、次年度は、このプロトタイプデバイスに電界効果トランジスタ構造を作り込むことによって電界効果と歪み効果を同時に印加可能なデバイスを作製を試みる。これによって、物質のバンド幅とバンドフィリングを任意かつ連続的に制御することが可能となり、これまでに観測することのできなかった幅広い電子相にアクセスすることが可能となるものと考えられる。また、強相関電子系物質に加えて、領域内研究者との連携により様々なπ電子系物質への歪み効果の印加を試みる予定である。これにより、魅力的な物性が期待されながらも合成技術だけでは実現できなかった新物性を歪み効果(格子間隔・分子間距離の制御)によって実現することを目指す。
すべて 2016 2015
すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件) 学会発表 (8件) (うち国際学会 8件)
Scientific Reports
巻: 6 ページ: 20571-1~10
10.1038/srep20571