研究領域 | π造形科学: 電子と構造のダイナミズム制御による新機能創出 |
研究課題/領域番号 |
15H01006
|
研究機関 | 国立研究開発法人理化学研究所 |
研究代表者 |
河東田 道夫 国立研究開発法人理化学研究所, 計算科学研究機構, 特別研究員 (60390671)
|
研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2017-03-31
|
キーワード | 有機π電子系化合物 / 計算化学シミュレーション / 電子状態計算 / 分子動力学シミュレーション / 超分子化合物 / 有機半導体 / 高次フラーレン / 有機薄膜太陽電池 |
研究実績の概要 |
平成27年度には、(1) p型有機分子半導体であるジナフトチエノチオフェン(DNTT)結晶へ印加する圧力を変化させた際に発現する特異的なホール移動度変化機構解明のための理論的研究を行った。本研究では、印加する圧力を変化させた際の結晶構造変化を第一原理計算と分子動力学シミュレーションにより検討を行い、先行研究にて報告されている圧力の大きさに依存した異方的な結晶構造変化を示唆する結果が得られた。現象の発現機構の詳細な理解を目的として、現在、結晶構造計算結果のより詳細な解析およびホール移動度計算を進めている。 次に、(2)高精度電子状態計算による高次フラーレン分子の生成熱の高精度予測計算と電子状態物性解明の研究をシドニー大学と理化学研究所との国際共同研究にて行った。本研究では、C60からC320までの10種類のフラーレンの生成熱計算を「京」コンピュータと分子科学計算ソフトウェア「NTChem」を用いて行い、従来の計算手法を上回る高精度での生成熱の理論予測に成功した。さらに得られた生成熱の計算結果よりC320より大きなフラーレン分子の生成熱を算出する一般的な計算式を導出し、骨格に六員環と五員環を持つフラーレン分子と六員環のみで同素体のグラフェンとの電子状態物性が大きく異なることを明らかにした。 上記研究以外にも領域内実験研究者との共同研究として、(3)C3対称環状共役π電子分子結晶の第一原理計算による結晶構造解析の研究と(4)有機薄膜太陽電池PCBM/PCPDTBT界面における電荷移動・再結合過程の第一原理計算と分子動力学シミュレーションによる研究を実施した。(2)、(3)の研究については学術誌への論文発表を行った。特に(2)の研究については、JACSのスポットライト論文に選出された。(4)の研究については、現在学術誌へ論文投稿中である。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究計画で立案した(1) DNTT結晶の圧力に依存した特異的なホール移動度変化機構の理論的研究については、結晶構造予測の電子状態計算と分子動力学シミュレーション実行時に計算モデルおよび計算条件に関して試行錯誤を伴う予備検討を要したため、研究進行は当初の予定よりやや遅れているものの、現在得られている計算結果は立案した研究計画の妥当性を確認できるものである。そのため、来年度継続して研究を進める方針に実施計画を修正すれば研究機関内に一定の成果は得られると予想している。(2) 高次フラーレン分子の生成熱の高精度予測計算と電子状態物性解明の国際共同研究や(3)C3対称環状共役π電子分子結晶の第一原理計算による結晶構造解析の研究と(4)有機薄膜太陽電池界面における電荷移動・再結合過程の理論的研究の領域内共同研究については、研究課題開始後に共同研究を立ち上げて研究を遂行したが、現時点でも学術誌への論文発表の成果が得られており、当初の計画以上に研究が進捗している。
|
今後の研究の推進方策 |
DNTT結晶に圧力を印加した際の特異的なホール移動度変化機構の理論的研究については、結晶構造の計算結果の詳細な解析とホール移動度計算を進め、印加した圧力の大きさに対する結晶構造とホール移動度変化の相関を解析し、圧力現象発現機構の解明を進める。また、今年度には、研究計画にて立案したオリゴ(p-フェニレンビニレン)誘導体に機械的刺激を与えた際のメカノクロミズム発光特性の理論的研究を開始する予定である。本研究では、オリゴ(p-フェニレンビニレン)誘導体の分子集合体の準安定状態の構造探索とエネルギー解析計算を分子動力学計算と第一原理計算計算により行い、得られた準安定状態の構造モデルに対して第一原理励起状態計算を行い、そのメカノクロミック発光機構の解明を目指す。さらに、研究が順調に進捗した場合には分子間の分子集合体の構造やπ軌道の重なりや広がりの異方性を調整するようなπ骨格と側鎖の分子設計や、機械的刺激に対する応答性や発光波長および量子収率の制御の可能性の検討も行う。
|