本研究課題では、極低バックグラウンドを必要とする実験的研究課題に共通する問題(表面バックグラウンド)を解決するための新しい検出器材料の開発を目的とする。表面バックグラウンドは、材料の高純度化や洗浄によって低減する方法が一般的であるが、本研究は、「検出器材料表面に発光機能を持った熱可塑性薄膜素材(薄膜発光フィルム)を溶着することでアクティブに表面バックグラウンドを除去する方法」を開発する取り組みである。 高エネルギー実験で広く利用されているポリスチレン(以下、PS)ベースの蛍光素材を利用して、厚さ(25~200μm厚)の薄膜発光フィルムを製作した。発光フィルムの性能評価として、エネルギーあたりの発光量、発光時間特性(発光の減衰時間)、素材の透明度など、光学特性評価を行った。その結果、発光量が10000光子/MeV程度得られ、時定数も10nsecと理想的な性能を得ることができ、薄膜蛍光Filmの開発に成功した。 WIMPs検出器結晶として有望なCaF2結晶とPSベース薄膜発光フィルムの組み合わせを用いて、発光波形の違いによる表面バックグラウンド除去原理の検証を行い、疑似的な表面バックグラウンド信号として、外部からベータ線源を照射しそれぞれの波形を記録、分析して外部から入射されたベータ線事象が高い効率で識別できることも確認でき、原理検証に成功した。 検出器結晶と薄膜フィルムを密着させるため、塩化ビニル系軟化材を用いて添加することで、PSベースの薄膜軟化蛍光フィルムを製作することに成功し、発光検出器材料として汎用性のあるものが開発できたことが大きな成果として挙げることができる。将来の低バックグラウンド化へ向けて材料に含まれる放射性不純物量の分析と、低放射能材料の利用については、地上測定では分析を行ったが、検出限界以下であった。
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