公募研究
ガスセンサーは工業原料や排気ガスに含まれるガスの検知に広く用いられており、近年では、環境エネルギー分野での高性能ガスセンサーの重要性が増している。ガスセンサーの性能向上には、異種元素のドーピングが有効であることはよく知られている。ドーピングによるセンサー特性の向上は、センシング材料表面に特有の活性サイトが出現する結果である。したがって、センシング材料の開発においては、そのような活性サイトを有する表面(ここでは活性表面と呼ぶ)の原子配列を同定することは極めて重要である。本研究では、低速イオン散乱分光と光電子回折・ホログラフィーを相補的に組み合わせ、活性表面の原子配列を精緻に同定する。これにより最終的には、産業応用に直結するガスセンサーの早期実現を目指す。本年度では、最表面の原子配列が既知の酸化物半導体(ZnO極性面)の表面への光電子回折・ホログラフィーの適用の検討を開始した。またそれと平行して連携研究者と共同でZnOへのさまざまな異種元素のドーピングと、そのセンサー特性を調べた。その結果、タングステンをドープしたZnOにおいて優れたガスセンシング特性が見出された。このことから光電子回折・ホログラフィーを利用した表面構造解析を行うべき試料として、W-ZnOを選定した。そしてこのW-ZnOに関して、Spring-8のBL25SUを用いた光電子回折実験を2回行った。これらの実験で得られた結果は、既に予備的に行った低速イオン散乱分光による最表面構造解析の結果と符合した。すなわち、W-ZnO試料を加熱することでWは最表面に偏析し、この析出したWは表面第二原子層のZn置換サイトに位置することが明らかとなった。さらに、W-ZnO最表面は酸素で終端していることも明らかとなった。
2: おおむね順調に進展している
当初の計画では、低速イオン散乱分光による最表面構造解析の精度を上げるために、測定中に試料を保持する装置(マニピュレータ)を整備する予定であった。これに対し、実際にそのようなマニピュレーターを整備し、低速イオン散乱分光による高精度な原子配列解析が可能な表面分析装置の開発に成功した。さらに当初の計画では光電子回折・ホログラフィーを利用した構造解析を行うべき試料として、表面活性に起因する優れたガスセンサー特性を示す試料を選定することとしていた。これに対し、連携研究者と共同でZnOへのさまざまな異種元素のドーピングと、そのセンサー特性を調べ、その結果、タングステンをドープしたZnOにおいて優れたガスセンシング特性を見いだした。そしてこのW-ZnO系を光電子回折・ホログラフィー実験の試料として選定した。上記のように、当初の計画に沿って研究はおおむね順調に進展している。
光電子回折・ホログラフィーの酸化物半導体への適用を広げ、低速イオン散乱分光との相補性を検討する。また低速イオン散乱分光による解析の精度を上げるために、測定系を改良する。具体的には、低速イオン散乱分光用ビームラインの排気系を改良し、作動排気特性を向上させる。ビーム強度は動作時の真空度に依存するため、この様な改良によってビーム強度の向上、つまり測定精度の改善が見込まれる。さらに、前年度に行ったZnO極性面やW-ZnO系の光電子回折・ホログラフィーによる解析の検討を進める。具体的には、W-ZnO系において見いだされたWの表面偏析に関して、偏析したWの位置、欠陥構造、ガスセンサー特性との関係をより詳細に検討する。
すべて 2016 2015
すべて 雑誌論文 (6件) (うち査読あり 6件、 謝辞記載あり 2件) 学会発表 (17件) (うち国際学会 5件、 招待講演 4件) 産業財産権 (1件)
Analytical Sciences
巻: 32 ページ: 449,454
10.2116/analsci.32.449
Nuclear Instruments and Methods in Physics Research Section B: Beam Interactions with Materials and Atoms
巻: 印刷中 ページ: 印刷中
10.1016/j.nimb.2016.02.064
Nature Nanotechnology
巻: 11 ページ: 273,279
10.1038/NNANO.2015.276
Nucl. Instrum. Methods Phys. Res. Sect. B-Beam Interact. Mater.
巻: 354 ページ: 163,166
10.1016/j.nimb.2014.11.055
Geochem. J
巻: 49 ページ: 559,566
10.2343/geochemj.2.0385
Journal of the Surface Science Society of Japan
巻: 36 ページ: 408,411
http://doi.org/10.1380/jssj.36.408