公募研究
本研究の目的は、赤外レーザーや赤外放射光といった高輝度赤外光源を用いて、タンパク質微結晶(結晶サイズ100 μm以下)に適用可能な高感度顕微赤外分光技術を開発し、赤外分光とX線結晶構造解析との相補利用を促進することである。最終的にはX線結晶構造解析のビームラインでのon-line分光計測を目指す。X線結晶構造解析において、同一試料のon-line分光計測は、試料状態の評価、特にX線損傷の評価や反応中間体の同定などに有用である。本研究では、一酸化窒素還元酵素(NOR)の中間体の解析を通して、X線結晶構造解析ならびに赤外分光の技術開発・相補利用を進める。NORは、微生物の嫌気呼吸を担っており、細胞毒であるNOをN2Oにまで還元するヘム酵素である。本年度は、on-line赤外分光装置のベースとなるon-line可視分光装置を完成させた。赤外分光への発展を念頭に、装置は全て反射光学系で構築した。装置は、SPring-8構造ゲノミクスビームライン(BL26B2)に設置し、カビ由来NOR結晶(NO結合型)のX線損傷の評価に応用した。X線照射下でヘムの可視吸収スペクトルを実時間でモニターした結果、わずかsub-MGyのX線吸収線量でヘムが損傷される様子が観測された(J. Synchrotron Rad. 2016)。無損傷のX線結晶構造解析を行なうためにはSACLAのフェムト秒X線を用いる必要があるため、今後はSACLAでのon-line分光計測も視野に入れる必要がある。また、SPring-8 BL43IRにおいて、カビ由来NOR結晶(NO結合型)の赤外分光測定を行なった。テーパー型赤外フローセルを開発し、結晶を常温・母液環境下で安定にマウントした。まずは100 μm以上の大型結晶を用いて、NO伸縮振動(1855 cm-1)の観測に成功したところである。
2: おおむね順調に進展している
on-line赤外分光装置のベースとなるon-line可視分光装置を開発し、NORへの応用例とともに、誌上発表できたため
on-line可視分光装置をベースに、on-line赤外分光の計測系を開発する。赤外光源としては、軽量で持ち運び可能な量子カスケードレーザーを用いる予定である。また、高輝度赤外光源である赤外放射光(SPring-8/BL43IR)を利用したタンパク質微結晶の赤外分光も推進する。
すべて 2016 2015
すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件、 謝辞記載あり 1件) 学会発表 (6件) (うち国際学会 3件、 招待講演 1件)
J. Synchrotron Rad.
巻: 23 ページ: 334-338
10.1107/S1600577515018275