公募研究
本研究は、原始地球環境中で生物がいかにして光合成能力を獲得したか、いかに酸素発生型光合成を可能にしてきたか、という光合成の進化を明らかにすることを目的として、冥王代類似環境温泉水、その周辺温泉水、および遺伝子情報データベースを活用して、既知の光合成生物よりも始原的な光合成器官を残す微生物および遺伝子情報を単離・探索することである。また、原始地球の大気環境から推定される当時の光波長から、光合成色素の進化を議論する。その一方で、現存する光合成色素の未解明な生合成経路を解明して、バクテリオクロロフィル生合成系の全体像を整理し、生物の光利用の進化を考察する。新規細菌の単離だけでなく、新規光合成色素分子の発見にも着目する。光合成色素は、それを持つ光合成生物の生態学的なニッチや、進化の過程でその生物が分岐した当時の光環境に関する直接的な証拠となる。また、既知種を用いるアプローチとして、光合成細菌の近縁種間ゲノム比較による光合成遺伝子クラスターの進化解明、酸素発生型光合成の獲得シナリオに関する進化再現実験を行う。本研究では、冥王代類似環境温泉水および温泉微生物マットから、各種光源と各種光合成細菌用培地を用いることで新規の光栄養性細菌の集積と単離を試みる。単離した新奇光合成細菌について、ゲノム解析と生化学的/分光学的解析を行い、始原的な光合成タンパク質の特徴を明らかにすることで冥王代の地球表層の光環境についての具体的な証拠を提示する。光合成の進化を明らかにするため、光合成色素合成系の全容を解明し、それを基に色素系を改変して進化の中間的段階を創出し生理学的な解析を行う。また、系統樹上で最も古くに分岐する繊維状光合成細菌の網羅的なゲノム解析を行い、極限環境である温泉微生物マット中での生育に有利な形質についての知見を得る。
2: おおむね順調に進展している
鹿児島県霧島温泉郷野々湯温泉の微生物マットサンプルを光合成細菌用培地で集積培養したところ、種々の色を呈するコロニーや緑色のバイオフィルム、クロロフィル様のHPLCプロファイルを示すカルチャーが観察された。今後はこれらからの新株単離を目指す。また、当該温泉は微生物マットが防護ネットで囲われており野生動物等の侵蝕の影響が少なく、温度勾配の形成が安定であることから、今後は新株単離だけではなく各温度帯ごとのメタゲノム解析等の研究も継続する。現存する光合成色素の中で、バクテリオクロロフィル(BChl)-bは最も長波長領域の光(近赤外光)を吸収することができる。前年度に解明した本色素の生合成経路を利用して、元来BChl-aを合成するモデル生物Rhodobacter sphaeroidesにBChl-bを生産させることで進化の過渡的段階を創出した(Tsukatani et al. 2015 Sci. Rep.)。酸素発生型光合成への進化のうち、クロロフィル合成能の獲得には、2つの異なるタイプの光化学反応中心蛋白質の共存および糖脂質膜合成系が必須であることが明らかとなった(Tsukatani and Masuda 2015 Orig. Life Evol. Biosph.)。
引き続き霧島温泉マットからの光合成細菌単離を試みるとともに、白馬温泉等の環境サンプルからの単離も目指す。色素合成系の進化途上変異株を用いて生理・生化学的解析を行い色素分子の局在および色素置換による光化学系への影響を解明する。クロロフィル合成変異株について酸素発生能の獲得への進化再現実験へ進む。
すべて 2015
すべて 雑誌論文 (4件) (うち査読あり 4件、 オープンアクセス 2件、 謝辞記載あり 1件) 学会発表 (4件) (うち国際学会 4件)
Sci. Rep.
巻: 5 ページ: 9741
DOI: 10.1038/srep09741
Orig. Life Evol. Biosph.
巻: 45 ページ: 367-369
DOI: 10.1007/s11084-015-9446-1
Genome Announc.
巻: 3 ページ: pii: e01006-15
DOI:10.1128/genomeA.01006-15
Mol. Microbiol.
巻: 98 ページ: 1184-1198
doi: 10.1111/mmi.13208