研究実績の概要 |
本研究では“Habitable trinity=生命誕生場”に加わる天体重爆撃の影響を定量的に評価することを目的としている. アポロ計画で回収された月試料と月面クレータ計数から明らかとなった地球史最初期の~10億年に渡る天体衝突頻度が高かった時代と, 原始表層の化学進化から最初の生命の誕生に至る時代は時期的に重なっている. 生命誕生場の活発な化学反応を支えるには酸化還元の電気化学勾配の存在が不可欠である. 本研究では天体衝突による不可逆加熱が固体岩石惑星の主要構成要素である珪酸塩を分子酸素と還元的鉱物微粒子に分解し, 環境中に放出されるという生命誕生場への新たな自由エネルギー供給機構を提案し, その影響を定量的に評価する. 研究の遂行にあたって以下の4つの課題を設定している. (1) 炭素質隕石の分解実験: 酸素ガスと還元的微粒子同時生成の実証, (2) 主要珪酸塩鉱物のレーザー衝撃実験: 衝突生成エントロピーの定量化, (3)個々の天体衝突時の分子酸素発生量の定量化, (4)冥王代地球への適用である. 今年度は(1)の準備として酸素にのみ感度を持つ蛍光センサーを導入した. 購入に至るまでの性能チェックや価格交渉などに時間を要したため, 今のところ具体的な実験はできておらず, 来年度に持ち越しとなった. (2)では予定どおりの実験を実施した. 地球の上部マントルの端成分である橄欖石(Mg2SiO4)のレーザー衝撃実験を実施し, 温度と圧力を同時に計測し, 良質なデータを取得することができた. 現在鋭意解析中である. 研究計画(4)でも進展があった. 冥王代地球の衝突環境に関して最近の文献をレビューした. 邦文ではあるが査読付き総説として出版予定である. その知見をもとに冥王代地球への応用時に基本となる確率論的天体重爆撃モデルを構築した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究計画(1)では当初の予定どおり酸素にのみ感度を持つ蛍光センサーを導入したが, 購入に至るまでの性能チェックや価格交渉などに時間を要したため, 今のところ具体的な実験はできておらず, 来年度に持ち越しとなった. しかし, その間に研究計画(4)で使用する計算コードの構築, モデル構築に必要な文献のレビュー, 及び計算コードの試用のために行った計算で査読付き論文が二報, 受理されるに至った. よって予定通りではなかったが, 正味としては順調に進展していると判断した.
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今後の研究の推進方策 |
研究計画(2)については平成27年度の実験で良質なデータが取得できた. 実験を行っている外部共同利用機関のエンドユーザへ提供されるマシンタイムが縮小されたことを受け, 平成28年度の実験優先度をやや下げることとした. 予定より遅れている研究計画(1)の実行に重点的に取り組む予定である. 研究計画(3), (4)については当初の予定どおりにマルチコアの計算機を導入し, 広いパラメータ範囲での数値計算を実施する予定である.
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