研究領域 | 冥王代生命学の創成 |
研究課題/領域番号 |
15H01068
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研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
赤沼 哲史 早稲田大学, 人間科学学術院, 准教授 (10321720)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 進化 |
研究実績の概要 |
研究開始時までに、11種のアミノ酸がArc1から容易に欠損可能であることを明らかにした。平成27年度は、欠損が容易な複数のアミノ酸種を同時に欠損させた変異体を系統的に作製し、解析した。最終的に異なる組み合わせの7アミノ酸種を欠損させた、2つの13アミノ酸種から構成された改変体を合成した。一方の改変体は75℃まで安定であり、Arc1の1%に相当する比活性を維持した。もう一方の改変体は69℃まで安定であり、Arc1の1万分の1の比活性を有した。すなわち、少なくとも13アミノ酸種あれば、安定で機能を持つヌクレオシド二リン酸キナーゼを合成可能であった。 上述の実験を通じて明らかにした、安定で機能を有するタンパク質の合成に必要なアミノ酸と欠損可能なアミノ酸を、遺伝暗号の進化に関する仮説や、原始生命が用いたアミノ酸種類に関する仮説と比較した。その結果、本研究で明らかになった必要なアミノ酸種の多くは、非生物学的に合成されるアミノ酸(Miller, Science 117:528-8211;529, 1953)と一致し、SNS(S=C+G; N=A+C+G+T) 遺伝暗号でコードされるアミノ酸であった。一方、セリンとスレオニンは多くの仮説で「Early amino acid」とされているが、アミノ酸組成単純化型Arc1改変体の合成には必ずしも必要ではない欠損可能なアミノ酸であった。 TIMバレル構造を持つホスホリボシルアントラニル酸異性化酵素(TrpF)から1アミノ酸種のみを完全に欠損させた19種類のアミノ酸のみを含む20個の改変体も作製した。改変体の遺伝子を用いて、TrpFを持たない大腸菌を形質転換し、栄養要求性の相補試験をおこなったところ、4株の形質転換大腸菌で生育の相補が見られず、この4アミノ酸種はTrpFの合成に必須であった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では、Arc1から容易に欠損可能なアミノ酸種を複数種同時に欠損させた改変体をすべての組み合わせで合成し、安定性と触媒活性を評価する。さらに、欠損させるアミノ酸種類数を増やした改変体の合成と、安定性と触媒活性の解析をおこなう。このように系統的に徐々にアミノ酸種を欠損させる一連の操作を、機能を保持した安定なNDKの構築に必要な最少のアミノ酸種が明らかになるまで繰り返しおこなうことを当初の目的とした。 また、天然タンパク質の約10%に見られ、尚且つ、古くから存在すると推定されるTIMバレル構造を持つタンパク質からどのアミノ酸種が欠損可能かについても同様に検討することも目的とした。 平成27年度までに、異なる組み合わせの7アミノ酸種を欠損させた、2つの13アミノ酸種から構成された改変体を合成した。一方の改変体は75℃まで安定であり、Arc1の1%に相当する比活性を維持した。もう一方の改変体は69℃まで安定であり、Arc1の1万分の1の比活性を有した。すなわち、少なくとも13アミノ酸種あれば、安定で機能を持つヌクレオシド二リン酸キナーゼを合成可能した。以上の成果から、次年度に引き続き系統的にアミノ酸種をさらに減らしていくことによって12種未満のアミノ酸の組み合わせを検討することで、機能を保持した安定なNDKの構築に必要な最少のアミノ酸種を明らかにすることが十分に期待できるものである。 さらに、TIMバレル構造を持つホスホリボシルアントラニル酸異性化酵素(TrpF)から1アミノ酸種のみを完全に欠損させた19種類のアミノ酸のみを含む20個の改変体も作製したので、次年度に安定なTIMバレル構造の形成に必要な最少のアミノ酸種を明らかにすることが十分に期待できるものである。
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今後の研究の推進方策 |
平成27年度までに、異なる組み合わせの7アミノ酸種を欠損させた、2つの13アミノ酸種から構成された改変体が約70℃まで安定で、検出可能な触媒活性を持つことを明らかにしたので、今後も引き続き、系統的に13アミノ酸種からさらにアミノ酸種をさらに減らしていくことによって12種未満のアミノ酸の組み合わせを検討する。最終的には安定で検出可能な触媒活性を持ったNDK改変体を合成するために必要となる最少のアミノ酸種を明らかにし、そのアミノ酸種と原始生命が用いたアミノ酸種類数に関する諸説と比較することによって、原始生命が用いたアミノ酸種類数に関する諸説に対して実験的評価をおこなう。 また、少数アミノ酸種で構築されたArc1改変体の細胞内での機能評価を目的として、T. thermophilusの染色体中のNDK遺伝子と少数アミノ酸種で構築したArc1改変体の遺伝子とを置き換え、表現系の違いを解析する。 また、平成27年度にTIMバレル構造を持つホスホリボシルアントラニル酸異性化酵素(TrpF)から1アミノ酸種のみを完全に欠損させた19種類のアミノ酸のみを含む20個の改変体も作製し、それらの改変体の遺伝子を用いて、TrpFを持たない大腸菌を形質転換し、栄養要求性の相補試験をおこなった。その結果、4株の形質転換大腸菌で生育の相補が見られず、この4アミノ酸種は安定なTrpFの合成に必須であることを明らかにした。そこで、今後は欠損が可能であった16アミノ酸種について、複数種同時に欠損させた改変体をすべての組み合わせで合成し、安定性と触媒活性を解析する。さらに、欠損させるアミノ酸を増やした改変体の合成と解析をおこなう。このようにして、系統的に徐々にアミノ酸を欠損させる一連の操作を、安定なTIMバレル構造の構築に必要な最少のアミノ酸レパートリーが明らかになるまでおこなう計画である。
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