研究領域 | 冥王代生命学の創成 |
研究課題/領域番号 |
15H01071
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研究機関 | 国立研究開発法人産業技術総合研究所 |
研究代表者 |
加藤 創一郎 国立研究開発法人産業技術総合研究所, 生物プロセス研究部門, 研究員 (30597787)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 微生物 / 生命初期進化 / 冥王代類似環境 / 酢酸生成菌 / 細胞外電子移動 |
研究実績の概要 |
本研究では「硫化鉄等の金属鉱物に蓄えられた電気」をエネルギー源とした「還元的アセチルCoA経路による酢酸生成」が原始生命体の主要なエネルギー・炭素固定代謝系であったとする仮説に基づき、現存の冥王代類似環境を含む多種多様な環境から該当の代謝経路を有する新規微生物を分離培養し、冥王代環境において鉱物-微生物間電子移動に基づく酢酸生成反応が生命誕生・初期進化のドライビングフォースとなりえたことを実験的に証明することを目的とする。平成27年度は、(1) 鉱物をエネルギー源とする酢酸生成微生物の集積培養、(2) 微生物群集構造解析による集積培養中の優占微生物種の特定、を目的とした。 (1) 鉱物をエネルギー源とする酢酸生成微生物の集積培養:冥王代類似環境(長野県白馬八方温泉)および高温(各種温泉、堆肥等)、低pH(美唄湿原土壌)、高塩濃度(猿払炭鉱地下水)サンプルを微生物源とし、金属鉄を唯一のエネルギー源として利用可能な微生物の集積培養をおこなった。その結果、一部のサンプル(美唄湿原土壌、猿払炭鉱地下水)で鉄酸化に由来する酢酸生成がみられた。 (2) 微生物群集構造解析による集積培養中の優占微生物種の特定:美唄湿原土壌と猿払炭鉱地下水の金属鉄培養で優占していた微生物種として、Clostridium magnumと相同性97.9%、Acetobacterium wieringaeと相同性99.3%のクローンがそれぞれ同定された。これらの近縁種はいずれも酢酸生成菌であり、両クローンが金属鉄酸化・酢酸生成に関与している可能性が高い。 (3) 酢酸生成微生物の純粋分離:現在メタノール、ベタイン、H2/CO2などを基質とした酢酸生成菌用培地を使用し、上記の優占種の分離を試みている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の研究計画である、(1) 鉱物をエネルギー源とする酢酸生成微生物の集積培養、(2) 微生物群集構造解析による集積培養中の優占微生物種の特定、について、冥王代類似環境からの微生物の取得こそならなかったが、その他の2環境から集積培養に成功し、また優占微生物種の特定に至ることができた。また当初は平成28年度に計画していた該当微生物の単離培養についての実験が既に進行中であり、研究はおおむね順調に進展していると言える。
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今後の研究の推進方策 |
平成27年度の結果を受け、平成28年度は以下の計画に沿って研究をおこなう。 (1,2) 鉱物をエネルギー源とする酢酸生成微生物の集積培養、群集構造解析:各種サンプルについて引き続き集積培養を試み、有望なものについては群集構造解析により優占微生物種を特定する。 (3) 酢酸生成微生物の純粋分離:美唄湿原土壌と猿払炭鉱地下水サンプルで特定された酢酸生成菌の純粋分離をおこなう。 (4) 電気化学培養システムでの分離株の培養:分離株を電位制御した硫化鉄鉱物を電子源として培養し、電気エネルギーにもとづく酢酸生成および増殖が可能であることを実証する。 (5) 分離株のCODH遺伝子の特定と進化学的解析:分離株の一酸化炭素デヒドロゲナーゼ(CODH)遺伝子の塩基配列を決定し系統樹を作製することで、酢酸生成微生物および還元的アセチルCoA 経路の進化について考察する。
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