公募研究
画像診断装置の性能や機能の向上により様々な疾患の早期発見が可能になっているが,膵がんに対しては有効な早期発見法がなく,死亡者数も20年で倍増している.近年,粘弾性という物理情報を非侵襲的に得られる新しい画像診断法として「エラストグラフィ」が開発され,新たなバイオマーカーとして研究開発や臨床での利用が進んできている.現状のエラストグラフィでは,生体深部領域の粘弾性率の微小な変化を定量的に捉えることが困難であるが,この問題を解決すれば,膵がんなどの早期発見や良悪性の鑑別,浸潤範囲の確定に有効と考えられる.本研究では,生体の深部に存在する膵臓のような小さな臓器や組織の多元情報を定量的に取得可能なシステムを開発することを目的とする.H27年度では,生体深部にある膵臓のような小さな臓器や組織の粘弾性率分布を取得するために,生体内に弾性波を効率的に発生可能な振動子を含むMREシステムを改良し,複数周波数と複数位相の弾性波を生体深部へ効率的に発生可能な加振システムと,発生した複数周波数の弾性波を3次元的にMRIにより画像化するためのパルスシーケンスを開発した.
2: おおむね順調に進展している
現在,臨床装置のオプションとして提供されているMREシステムにおいては,1個の平面状の振動子が用いられており,1回の撮像に1種類の情報のみを収集するようになっている.深部を観察するには振動子の振幅を大きくする必要があるが,このことにより体表面での痛みや不快感など,被検者への負担が大きくなるため,実用的ではない.そこで,振動子の形を凹面状にするとともに,複数配置した加振システムを開発し,表面付近の振幅を抑えながら深部領域の振幅が向上することに成功した.これにより,被検者への負担低減を考慮しながら,粘性の高い生体組織の深部領域に複数周波数の弾性波を効率的に発生可能とした.
開発したシステムを用いて得られた弾性波データから,空間分解能と定量性の高い粘弾性率分布を推定するための算出手法を研究開発するとともに,従来手法との比較評価を行う.高空間分解能を達成することにより,膵臓のような小さな臓器の粘弾性率を推定可能となる.また,システムの定量性を評価するために,物理的測定装置であるレオメータや超音波エラストグラフィ装置との比較も必要と考えている.これらの評価のために,マルチモダリティで利用可能なファントムを利用する.
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