超音波で体内に生成した剪断波の音速から組織の硬さ(弾性)を可視化するshear wave elastographyの手法が実用化したが、組織の力学的特性としては、弾性とともに粘性も重要となることから、以下に示す項目について研究を進めた。 (1)肝線維化モデル構築:肝線維化の進行により弾性とともに、NASHなどでは粘性の変化も反映する可能性があることから、結節の形成過程に、弾性と粘性の変化を組み入れた肝線維化モデルを構築し、剪断波の伝搬をシミュレーションにより再現した。また、剪断波速度を求めて、線維化stageの進行に伴い、速度が増大することが示された。さらに、速度分散特性に、Voigtモデルを当てはめ粘性と弾性の推定を行った。この際、組織に粘性要素を付加しない場合でも、線維化によるミクロな組織構造が、速度分散を生じ、見かけ上の粘性が生じることが示された。 (2)肝組織サンプルを用いた剪弾波伝搬解析:ブタ肝臓を用いて測定した剪弾波伝搬の速度分散から弾性と粘性の推定を行った。その結果、剪断波の波長(数mm~数cm)に比較し、薄い組織の場合は、ラム波としての伝搬を生じる結果、通常のTime of Flight法では誤差が大きくなるため、実際の臨床の場においても考慮が必要なことを示した。また、B型およびC型の慢性肝炎の各線維化stageにおける病理組織サンプルを用いて、線維構造を抽出したモデルを構築し、剪断波伝搬のシミュレーション解析を行った。その結果、(1)で検討した肝線維化モデルと類似の傾向を示した。 以上から、剪断波の速度計測によるNASH等の脂肪性の肝炎の鑑別診断や早期診断の可能性が示された。一方で、組織のサイズやミクロな構造の違いが速度分散を生じるため、速度分散からの粘弾性の評価における精度向上には、それらを配慮した測定法を適用する必要があることが確認された。
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