公募研究
本年度は,吸水反応に伴う反応誘起応力・歪を直接測定できる装置を開発した.また,出発物質の空隙率調整方法を確立した.その結果,反応誘起応力・歪を直接測定し,その封圧依存性・空隙率依存性を決定し,吸水反応における力学挙動の支配要因を明らかにすることができた.反応誘起応力・歪の支配要因を探るために,定荷重吸水実験および定体積吸水実験をおこなった.定圧吸水実験では,出発物質の空隙率が27%と大きいにも関わらず,0.01-10 MPaのすべての条件で反応によるバルク歪が生じた.荷重の増加とともにバルク歪の量は減少する.収縮歪と荷重の関係から,変形メカニズムは拡散律速の溶解沈殿クリープであり,変形速度が速くなるとバルク歪が減少することが明らかになった.一方,定体積吸水実験では,反応誘起応力は空隙率に線形に比例する.これは比表面積の違いにより空隙率の高いサンプルほど反応速度が高いためであり,反応誘起応力は反応速度に線形に比例することが明らかになった.以上の結果から,吸水反応による岩石の力学挙動は,反応速度と変形速度の競合に支配されることが示唆される.
2: おおむね順調に進展している
反応誘起応力が反応速度に比例することを実験的に初めて明らかにすることができた.従来の研究では,吸水反応に伴う応力ー歪関係は,天然試料を用いた実験で経験的にしか決められていなかったが,本研究による封圧・空隙率を変化させた系統的な実験により,支配要因が明らかになり,そのモデル化へと大きく近づいた.これらの理由から,本研究はおおむね順調に進展しているといえる.
反応誘起応力・歪を予測可能なモデルを構築するためには,本年度明らかになった応力・歪と反応速度・変形速度の関係をより系統的に精査する必要がある.そのため,反応速度は反応促進剤によりコントロールし,変形速度は出発物質の粒径を変化させて調整する.また,吸水反応は水の供給律速であり,反応による空隙率の変化が重要であることが本年度明らかになった.したがって,吸水反応中の空隙率の時間変化を測定・モデル化する必要がある.吸水反応中にX線CT撮像ができる反応装置を開発することにより,空隙率変化のその場観察が可能になり,反応進行予測モデルの構築ができると期待される.これらの実験とモデルを統合することにより,沈み込み帯スケールでの吸水反応の時空間発展と,それに伴う流体分布の変化を予測することができる.
すべて 2016 2015
すべて 雑誌論文 (5件) (うち国際共著 2件、 査読あり 5件) 学会発表 (5件) (うち国際学会 2件)
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