研究領域 | 地殻ダイナミクス ー東北沖地震後の内陸変動の統一的理解ー |
研究課題/領域番号 |
15H01139
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
佐藤 活志 京都大学, 理学(系)研究科(研究院), 助教 (70509942)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 地殻応力 / 流体圧 / 構造地質学 / 鉱物脈・岩脈 / 方向統計学 |
研究実績の概要 |
平成27年度の研究活動により,確率分布モデルのパラメタに基づいて駆動流体圧比を客観的に比較する手法を開発した.駆動流体圧比は,観測される多数の引張割れ目のうち,最も開口しにくく頻度の少ない方向の割れ目によって規定される.そのため,少数のデータの存否によって駆動流体圧比の推定値は大きく変わってしまう.そこで,確率分布モデルを当てはめた上でそのパラメタを比較し,駆動流体圧比の大小を客観的に比較する手法を開発した.この手法は,最適化された確率分布モデルのパーセンタイル点の比較に基づいている.新手法により,複数の引張割れ目群が観測されたときに,どれが相対的に高い流体圧下の構造であるかを客観的に判断できる.ただし,駆動流体圧比そのものの推定は難しい.なぜなら,何%のパーセンタイル点を駆動流体圧比とみなすかは任意だからである.また,確率分布モデルのゼロ点を駆動流体圧比とみなす方法も考えられるが,天然のデータによく当てはまるモデルは指数型でありゼロ点が存在しないため適用できない. 平成27年度中に予備調査として,付加体の構造性メランジュに発達する鉱物脈群の方位データを収集した.地質体に発達する鉱物脈群は,地殻流体が引張割れ目を充填した痕跡である.付加体の中でも構造性メランジュは,地質時代に沈み込みプレート境界を成していたと考えられる.調査対象としたのは,徳島県の南部に分布する白亜紀~古第三紀に付加した牟岐メランジュである.このメランジュは,海洋プレートと共に海底面下数kmまで沈み込んで,巨大地震発生帯の最浅部に到達した後に,底付け付加したと考えられている.プレート境界断層の付近とその他の地点で収集したデータを予察的に解析し比較したところ,プレート境界付近の駆動流体圧比が高かったことが示唆された.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成27年度の研究において,当初の計画で予定していた,ノイズ低減による駆動流体圧比決定精度の向上は成功しなかった.これは,天然の引張割れ目の方位頻度分布が法線応力に対して漸減するため,モデルの予測通りに減少した頻度と異常値との区別が困難だったからである.一方,複数の割れ目群の客観的な比較は可能になった.これは,確率分布モデルによって頻度分布を定式化したことにより,一定の数値的基準をもって頻度分布を比較することが可能になったためである. また,平成27年度中に天然の鉱物脈方位データの収集を進めることができ,データ数は十分でないが,プレート境界とその周辺とで駆動流体圧比が異なることが示唆された.
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今後の研究の推進方策 |
平成27年度に開発した手法は,客観的に駆動流体圧比の差を比較できるももの,その精度の評価はできなかった.そこで,新手法の性能検証として,ブートストラップ法による精度評価を試みる.そのため,模擬(人工)データの解析を行う. また,当初の計画の通り,付加体に発達する鉱物脈群のデータ収集と解析を進める.四万十帯の構造性メランジュは,基底に玄武岩を伴う複数のデュープレクスユニットからなる.デュープレクス構造は,底付け付加時に形成されたと考えられるので,ユニット境界断層はある時点のプレート境界断層である.その境界断層の付近と,境界断層から離れた地点で鉱物脈群の方位を測定することにより,底付け付加過程における流体圧の役割について知見が得られると期待される.
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