平成27年度に,引張割れ目群の応力逆解析において,確率分布モデルのパラメタに基づいて駆動流体圧比を客観的に比較する手法を開発した.平成28年度は,これを付加体に発達する鉱物脈群に適用した. 徳島県の南部に分布する白亜紀~古第三紀の四万十付加体を構成する牟岐メランジュは,海洋プレートと共に海底面下数kmまで沈み込んで,巨大地震発生帯の最浅部に到達した後に,底付け付加したと考えられている.メランジュは黒色頁岩の基質と砂岩や玄武岩などのブロックから成り,石英および方解石からなる鉱物脈が発達している.ブロックのみを切る鉱物脈はメランジュ形成時(1st stage)に,全体を切る鉱物脈はそれよりも後(2nd stage)に形成された.特に後者は,過去のプレート境界と考えられる断層(玄武岩層の基底)の上盤側に集中しており,底付け付加作用における応力・流体圧状態を記録していると期待される. 鉱物脈群の方位から古応力状態を計算したところ,層理面にほぼ直交する最大圧縮主応力軸が得られた.これは,プレート境界の摩擦強度が小さいことを示唆している.1st stageと2nd stageで駆動流体圧比を比較すると,1.5~2倍程度,後者が大きいことが分かった.鉱物脈方位データの95パーセンタイル点で駆動流体圧比を定義すれば,1st stageが0.2~0.5,2nd stageが0.5~0.7であった.以上の結果は,流体圧が大きい位置にプレート境界断層が伝播することで,海洋地殻物質が底付けされたことを実証している.
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