ポリユビキチン鎖は、プロテアソーム分解の基質標識としてだけではなく、シグナル伝達など多彩な機能を有している。ポリユビキチン化の時空間的制御に数多くのE3リガーゼが関与しているが、その選択性発現機構は充分に明らかになっていなかった。本研究課題では、タンパク質のS-グアニル化修飾が細胞内侵入細菌のポリユビキチン化と相関を持つことに着想を得て、両者の関係を詳しく調査した。当初の作業仮説では、S-グアニル化を受けたタンパク質自身が、続くポリユビキチン化を受けると考えていたが、リシン残基のアルギニン置換実験によって否定された。そこで、S-グアニル化タンパク質をベイトとするプルダウン実験を行った。種々のクロスリンク剤を併用して解析したが、S-グアニル化タンパク質との直接相互作用が疑われるタンパク質は、IBにおいてスメア状にはならなかった。この結果は、S-グアニル化認識タンパク質もまたユビキチン化の基質ではないことを示唆する。 一方、S-グアニル化されたタンパク質、細菌の周囲には、主としてK63型ポリユビキチン鎖が集積することが免疫細胞化学からわかっている。本年度は、人為的にミトコンドリアの周囲にS-グアニル化構造を導入して検討した。その結果、ミトコンドリアの周囲にK63型ユビキチン鎖がリクルートされることが確認できた。以上のように、S-グアニル化とK63型ユビキチン化の間には堅固な相関があり、その対象はタンパク質、細菌に加えてミトコンドリアなど一般性があることが示唆された。今後は、注目する細胞内構造の周囲に人為的なK63型ユビキチン鎖をリクルートして、その応答を解析する予定である。
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