公募研究
Nuclear factor-kB (NF-kB) は炎症性サイトカイン、ケモカイン、抗アポトーシス分子、増殖因子などの発現を制御する転写因子で、炎症反応、免疫応答、細胞分化や増殖といった様々な生命現象に関与している。一方で、制御異常による恒常的なNF-kB活性化は炎症性疾患やがんの原因となることが知られており、ヒトT細胞白血病ウイルスI (HTLV-1)の Taxタンパク質は恒常的なNF-kB活性化を誘導して細胞の不死化を引き起こし成人T細胞白血病を発症させると考えられている。Taxタンパク質によるNF-kB活性化の分子機構について無細胞系を用いて1) 鎖型特異的な脱ユビキチン化酵素を用いた解析、2) ユビキチンのリシン残基をアルギニンに置換した変異体を用いた解析を実施し以下の点を明らかにした。1)活性化にはK27型、K63型、直鎖状ユビキチン鎖の合成が必要である。2)K63型ユビキチン鎖の合成にはUbc13がE2として機能する。3)活性化には直鎖状ユビキチン鎖合成複合体(LUBAC)が必須である。4)Taxを介してLIUBACはIKK複合体に結合し、LUBAC/Tax/IKKからなる複合体を形成する。この複合体形成にユビキチン化は必要ない。5)質量分析からTax依存的にIKK複合体にK63型及び直鎖状ユビキチン鎖が結合していることが明らかになった。以上の結果から、LUBAC/Tax/IKK複合体がTaxにより合成されたユビキチン鎖によりさらに大きなマクロ複合体になりIKKが活性化するモデルを提唱した。
2: おおむね順調に進展している
これまでに我々や他のグループからK63型ユビキチン鎖がTaxによるNF-kB活性化に必要であることが報告されていたが、我々は加えてK27型や直鎖状ユビキチン鎖が必要であることを明らかにした。また、不活性化型のLUBAC/Tax/IKK複合体形成にユビキチン反応は必要としないが、活性化型のマクロ複合体形成にはK63型及び直鎖状両者のユビキチン鎖が必須であることを世界で初めて明らかにした。一方、K63型ユビキチン鎖形成にUbc13が必須であることは示したがE3酵素については同定できなかった。今後はマクロ複合体をさらに解析しE3酵素を探索する必要がある。
1)多くのサイトカインシグナルにおいてK63型ユビキチン鎖合成のE3であるTRAF6と直鎖状ユビキチン鎖合成であるLUBACは協調してNF-kBを合成している。しかし、協調の分子機構には不明な点が多い。我々はすでに無細胞系でのTRAF6によるNF-kB活性化系を確立しているので初めにHOIL-1Lノックアウト細胞でのTRAF6によるNF-kB活性化を検討する。反応系にK63R-Ub,HA-Ubや種々のDUBを添加しNF-kB活性化への影響を解析するとともにTRAF6,IKK,LUBACを免疫沈降しK63型。直鎖状ユビキチン鎖依存的なマクロ複合体形成や結合タンパク質変化を解析する。以上の実験結果からTRAF6とLUBACが協調するシグナルにおける異鎖間クロストークを解明する。2)悪性度の高いBasal-like乳癌では、恒常的なNF-kB活性化が癌幹細胞の増殖維持に関与することを報告している。そこで乳癌細胞の破砕液を用いた無細胞系システムで恒常的NF-kB活性化の分子機構を解明する。
すべて 2016 2015
すべて 雑誌論文 (6件) (うち国際共著 1件、 査読あり 6件、 オープンアクセス 2件、 謝辞記載あり 2件) 学会発表 (12件) (うち国際学会 5件、 招待講演 1件)
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