公募研究
タンパク質の翻訳後修飾の1つであるユビキチン化は、ユビキチン-プロテアソーム系による不要なタンパク質を分解する細胞内タンパク質の品質管理にとどまらず、DNA修復、細胞周期、転写、翻訳、シグナル伝達、免疫などほぼすべての細胞内プロセスの制御に関与している。近年、構造生物学的解析によりユビキチン化のメカニズムが構造の観点から議論できるようになってきている。一方で、タンパク質のユビキチン化過程で起こる動的分子プロセスの多くは不明である。ユビキチン修飾のメカニズムに対する理解をさらに深めるには、分子生物学、生化学、構造生物学的手法に加え、リアルタイムで動的分子プロセスを動画映像で直視する手法が非常に有用である。研究代表者は、ユビキチン修飾系の研究分野に高速原子間力顕微鏡(高速AFM)技術を展開している。高速AFMは、高い空間、時間分解能を併せもつため、タンパク質の形状とその動きを同時に観察できるという他の装置にない特徴がある。本研究課題では、ユビキチン化に必須な各種酵素の構造変化と集合・解離のダイナミクス、及び、それに伴う基質タンパク質のポリユビキチン鎖の伸長反応過程を高速AFM観察を用いて1分子レベルで明らかにする。
2: おおむね順調に進展している
これまでにユビキチン化関連酵素の精製および試験管内での至適反応条件を確立し、ユビキチン化関連酵素の中でも実際にタンパク質にユビキチンを付加する役割を担っているユビキチンリガーゼ(E3)のドメイン部分の高速AFM観察を行い、構造生物学的手法により予想されていた大きな構造変化をリアルタイムで検証することに成功した。また、タンパク質のユビキチン化は、ユビキチンをユビキチン活性化酵素(E1)、ユビキチン結合酵素(E2)、ユビキチンリガーゼ(E3)の順に転移させ、最終的に基質タンパク質へと付加している。このため、観察溶液中には複数種類のタンパク質が存在しているが、高速AFMは基盤に固定されたタンパク質の形状を計測する装置であるため、例えば基質タンパク質上でのユビキチン鎖生成過程を観察したい場合は、基質タンパク質(もしくはユビキチン)のみを基盤に固定する必要がある。そこで、Strep-tagⅡ融合ユビキチンをStrep-Tactin二次元結晶上に加え、HS-AFM観察を行ったところ、ユビキチンのみ選択的に基板上に固定化されることがわかった。さらに、基盤に固定した基質タンパク質、ユビキチンからユビキチン鎖が形成されることも確認している。
基盤に固定した基質タンパク質、ユビキチンからでもユビキチン鎖が形成されたことから、今後はこの過程をリアルタイムで直視する。また、ポリユビキチン鎖の多彩な連結様式の生成メカニズムを明らかにするため、ユビキチンのリジン変異体や種々のE2,E3,基質タンパク質を用いて高速AFM観察を行う。
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