本研究課題ではユビキチンリガーゼ(E3)の基質を生理的条件下で包括的に同定する研究基盤の構築を目標とした。前年度はKeap1-Nrf2をベンチマークに系を確立した。本年度はほとんど基質がわかっていないユビキチンリガーゼであるUBR1-7について系を応用することを目標とした。本系では、ユビキチン化活性を喪失させたE3変異体を導入する必要があるが、最初に、どのような変異を入れることが必要か検証をおこなった。UBRsについてRINGドメイン欠損変異体もしくはRINGドメインの機能を欠損させるような点変異体を作製し、ユビキチンと共に細胞内に過剰発現させ、E3の自己ユビキチン化を指標に変異体のユビキチン化活性の低下を確認した。 次にUBRs7のN末端に相同組み換えによってFLAGタグを挿入し、かつ開始コドンの次のイントロンにHygromycin耐性遺伝子を挿入するような組み換えベクターを設計、構築した。また、開始コドンをまたぐようにguide RNAを設計した。これらのベクターをHEK293TもしくはHCT116細胞に導入し、UBRsのN末端にFLAGタグが挿入された細胞を得た。 前年度の研究課題に際し、Keap1-Nrf2の系を構築する過程で、われわれはKeap1のE3機能が他のCul3型E3と比較して著しく弱いことを発見した。これはKeap1のBTBドメインが特殊な形状をしているためであり、強いE3活性を持つKLHL3のBTBドメインとのスワップ変異体を作製することで、E3の機能回復が確認できた。CRISPR/Cas9システムを用いてスワップ変異体をノックインした細胞では、ストレス応答におけるNrf2の蓄積および下流の遺伝子の応答が遅延した。以上よりKeap1の「弱い」E3活性は迅速なストレス応答のために最適化されていることが推測される。
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