公募研究
助成対象者(松田憲之)は、PINK1 と Parkin が異常ミトコンドリアをユビキチン化し、細胞内から除去する仕組みを解析してきた。本年度に助成対象者が研究対象にしたのが、損傷ミトコンドリアにParkinを移行させる“受容体”の実体解明である。これまでにも「Parkin受容体を同定した」とする複数の論文が報告されていたが、いずれも実験結果との矛盾があり、助成対象者はその結論に懐疑的であった。細胞内でユビキチンは単体(モノユビキチン)だけでなく、複数の分子が連なったユビキチン鎖としても存在する。リン酸化ユビキチンがリン酸化Parkinを活性化するという事実から両者の相互作用が示唆されるが、単体のリン酸化ユビキチンとParkinの結合は非常に弱かった。そこで、リン酸化ユビキチン鎖がParkinと結合する可能性を検証した。まず、細胞内や試験管内でユビキチン鎖もPINK1によってリン酸化されることを示した。次に、このリン酸化ユビキチン鎖がParkinの局在変化に関与するかどうかを検証するために、ミトコンドリア局在シグナルとタンデムユビキチンを融合(Mt-4Ub)し、PINK1欠損細胞内でParkinと共発現を行なった。Mt-4UbとParkinの両者がリン酸化模倣変異を有する時に限り、PINK1やミトコンドリア膜電位の低下と無関係に、Parkinはミトコンドリアに局在化した。さらに試験管内でリン酸化ユビキチン鎖とリン酸化Parkinの直接的な結合を示した。より生理的なリン酸化ユビキチン鎖(K63 linkage リン酸化ユビキチン鎖)をリソソーム上に形成させた場合にも、Parkinをリソソームに局在化できることが明らかとなった。一連の結果から、助成対象者(松田憲之)は、リン酸化ユビキチン鎖が “Parkin受容体”であると結論した。
2: おおむね順調に進展している
ParkinとPINK1とユビキチンの3者が協調して、どのようにしてミトコンドリアの品質を管理・維持しているのかについて、その仕組みが「翻訳後修飾因子(ユビキチン)の翻訳後修飾(リン酸化)」という、研究課題通りの文脈で明らかになりつつある。リン酸化されたユビキチンの鎖がParkin受容体であることを見出すことにも成功し、研究はおおむね順調に推移している。
翻訳後修飾因子(ユビキチン)の翻訳後修飾(リン酸化)の意味に関して、Parkin との結合に対して果たす役割を中心に、引き続き未解明点の解明を進める。また、リン酸化ユビキチンとParkinに加えて、E2 あるいはリン酸化ユビキチンとチオエステル結合した E2 も役者として検討に加えることで、生理的な意味でのさらなる機能解明を目指す。
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すべて 雑誌論文 (3件) (うち査読あり 3件、 謝辞記載あり 3件) 学会発表 (1件) (うち国際学会 1件、 招待講演 1件) 備考 (1件)
J. Biol. Chem.
巻: 290 ページ: 25199-25211
doi: 10.1074/jbc.M115.671446.
Journal of Cell Biology
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巻: 128 ページ: 964-978
doi:10.1242/jcs.161000
http://www.igakuken.or.jp/project/detail/ubiquitin.html