植物の一次細胞壁に存在するペクチン質多糖ラムノガラクツロナンII(RG-II)は、ホウ酸によって分子間架橋される。この架橋を介して形成されるペクチンネットワークが細胞接着や伸長に必須である。本研究では、RG-II架橋率低下による細胞伸長の抑制の分子機構の解明を目指し、本過程に必要な分子の同定を目標とした。RG-IIのホウ酸架橋率の低下で根の細胞伸長が抑制されるホウ酸欠乏環境において、主根伸長の抑制が緩和されたシロイヌナズナ変異株の原因遺伝子の同定と生理学的な解析を行った。 前年度までに、原因変異のひとつが、真核生物に広く保存された機能未知タンパク質の機能欠損・発現抑制であることを明らかにした。本変異株の細胞壁のホウ素濃度を測定したところ根・地上部ともに低下していた。細胞壁中のRG-II特異的な糖であるKDO量も低下する予備的な結果を得た。ホウ酸によるRG-IIの相対的架橋率を測定したところ、本変異株では増加または野生型株と同等の値を示した。変異株探索で得られたペクチン主鎖の合成を担う酵素をコードすると予想される遺伝子破壊株においても同様に、細胞壁中のホウ素濃度とKDO量の低下およびRG-II架橋率の維持が観察された。 この現象は、RG-II量の減少によって、少ないホウ素量でRG-IIの架橋率が維持できるようになり、結果として低ホウ酸条件下において根で細胞伸長抑制の緩和が起こったと考察された。この結果は、ホウ素欠乏で起こる細胞伸長の抑制は、「ホウ酸架橋されたRG-IIの絶対量の減少」ではなく、「ホウ酸架橋されたRG-IIの相対的な減少」で起こされることが考察され、架橋されていない単量体RG-II量が細胞伸長の制御に関わる仮説が導かれた。 加えて、本研究でペクチン合成に関与する新たな遺伝子の同定をし、本変異株探索によって細胞壁合成遺伝子の効率的な同定が可能であることを示した。
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