研究領域 | 植物細胞壁の情報処理システム |
研究課題/領域番号 |
15H01229
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
石黒 澄衛 名古屋大学, 生命農学研究科, 准教授 (50260039)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 花粉 / 細胞壁多糖 / 立体構造形成 / ペクチン / キシラン / アラビノガラクタン / シロイヌナズナ / バイオプラスチック |
研究実績の概要 |
シロイヌナズナの花粉の外壁(エキシン)は、花粉表面から立ち上がる多数の柱(バキュラ)とその頂点を結んで網目状の構造を作る梁(テクタム)で形づくられた立体構造である。壁や屋根を持たないこの構造は、配偶子保護のための頑丈さと容易な飛散を実現するための軽さを兼ね備えている。さらに、網の目の部分(ラキューナ)は柱のない空間で、花粉と柱頭の相互認識などさまざまな機能を持つポレンコートの保持に役立っている。エキシンの構造は植物種ごとに異なり、送粉や受粉の様式とともに進化してきたものと推定される。では、植物はこのエキシンをどのようなしくみで構築するのだろうか。突然変異体を用いた解析などから、エキシンの形成にはペクチン、キシラン、およびアラビノガラクタンの三種類の細胞壁多糖が必要であることがわかっていた。そこで、本研究ではこの三種類の多糖に注目して解析を進めた。免疫染色で調べた結果、ペクチンとキシランは減数分裂直後のまだ四分子を形成している時期の未熟花粉(小胞子)表面に、エキシンの形成に先駆けて斑点状に現れることがわかった。小胞子の発達過程ではペクチンとキシランがラキューナの位置を占め、それを避けるように網目状エキシンが発達する様子が観察された。エキシンはスポロポレニンと呼ばれる脂質由来のポリマー(一種のバイオプラスチック)である。以上の結果から、プラスチックが鋳型を用いて成形されるように、エキシンもペクチンやキシランの構造物を鋳型に用いて成形されるというモデルを提唱した。小胞子表面におけるペクチンやキシランの斑点状の沈着はテッポウユリを用いた実験でも観察されたことから、エキシン形成におけるペクチンとキシランの関与は少なくとも網目状のエキシンを持つ植物において普遍的なしくみであると考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ペクチンとキシランの解析については予定通りに進めることができた。未発表であるため研究実績の概要には含めなかったが、突然変異体を用いた解析も進めており、ペクチンやキシランの生合成に関する知見も得ている。繰越しの理由となった栽培室の不調も解消し、ナタネを用いた実験の遅れも取り戻しつつある。アラビノガラクタンの解析も進めており、次年度前半に成果を取りまとめられる予定である。
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今後の研究の推進方策 |
次年度はペクチンとキシランの解析、およびアラビノガラクタンの解析についてそれぞれ論文として取りまとめることを目標に、研究を進める。
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