研究領域 | 植物細胞壁の情報処理システム |
研究課題/領域番号 |
15H01231
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
金岡 雅浩 名古屋大学, 理学(系)研究科(研究院), 講師 (10467277)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 花粉管 / 細胞壁 / 受精 |
研究実績の概要 |
植物の細胞壁空間は細胞間シグナル伝達物質の受容と拡散の場として重要である。本研究課題では細胞間シグナル伝達物質のモデルとして花粉管誘引を取り上げ、複数のシグナル因子による花粉管誘引のダイナミックな機能制御の理解を目指している。 花粉管誘引とは、雌しべ内部を伸長する花粉管を卵細胞のある胚のうへと導くメカニズムであり、被子植物の受精にとってきわめて重要である。本年度は、胚のうへの短距離誘引シグナルの実態として助細胞から細胞外に分泌されるLUREsの立体構造を解明するため、NMRによる構造解析をすすめた。トレニアTfLURE1タンパク質に加え、構造を比較するために、シロイヌナズナAtLURE1.2タンパク質についても構造解析をすすめた。 独自のアッセイ系から長距離誘引に関わる因子として、胚珠胞子体組織から細胞外に分泌される新規タンパク質CALL1を発見した(H25-26年度の当領域公募研究の成果)。本年度は、CALL1の組織内局在がどのようなメカニズムで制御されているか調べるため、とくに雌しべ組織の役割に着目し、細胞壁分解酵素処理によるCALL1の局在変化について調べた。 また、これら花粉管ガイダンスシグナルを受容する花粉管において、細胞内カルシウムの動態も観察した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
NMRにより立体構造を決定するためには、測定するサンプルの純度と測定条件の最適化が重要である。これまでのサンプルでは精製のために付加されたHisタグが測定の際にノイズとして問題になっていたため、Hisタグを確実に取り除くためのコンストラクトの工夫をした。また、測定条件については、溶媒や温度、タンパク質のフォールディングを助ける試薬の濃度など様々な条件を検討し、シグナルが一定強度で出る条件にたどり着いた。 CALL1タンパク質は胚珠の胞子体組織で発現するが、興味深いことにそのタンパク質は雌しべ上部付近まで広がっている。一方、LURE1は助細胞で発現し、タンパク質も助細胞先端にのみ局在する。このような局在の違いがどのような要因によるか調べるため、雌しべ組織を細胞壁分解酵素で処理してタンパク質の局在を観察した。セルラーゼで処理するとLURE1の局在には変化はみられなかったが、CALL1のシグナルはほぼ消失した。このことから、CALL1は雌しべ細胞壁のセルラーゼで分解される成分と結合して局在が制御されている可能性が示唆された。 誘引物資が花粉管に受容されるとどのような変化が起こるのか、花粉管の細胞内カルシウム動態をイメージングして観察した。LURE1の無い条件ではカルシウム濃度には一定の幅での振動がみられた。LURE1を与えると、30秒以内に一過的なカルシウムの上昇がみられ、花粉管慎重速度は一時的に低下した。その後花粉管は方向を変えて、再び伸長し始めることが分かった。
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今後の研究の推進方策 |
(1)細胞壁空間に分泌され機能する長距離花粉管誘引因子CALL1の機能解析 長距離花粉管誘引因子CALL1について、CALL1 遺伝子のノックダウンや異所的発現により、受精における役割を明らかにする。あわせて、雌しべの様々な発生段階や受精の前後でCALL1の分泌や局在を解析し、CALL1の生体内での機能を明らかにする。さらに、トレニアに加えてイネやシロイヌナズナのオルソログを単離し、CALL1の機能の類似性や種特異性について検討する。 (2)花粉管誘引因子が花粉管細胞壁で機能するための分子構造解析 引き続き短距離誘引因子LUREsや、長距離誘引因子CALL1の立体構造の解明を目指す。さらに、CALL1とLUREsを様々な濃度やタイミングで花粉管に与えることにより、シグナル因子の混合効果と誘引活性の関係について明らかにする。 (3)誘引シグナルを識別して応答する花粉管細胞壁のダイナミクスの解析 長距離・短距離の誘引シグナルを花粉管がどのように識別して異なる応答を示すのかを誘引物質の受容の観点から明らかにするため、蛍光標識したCALL1やLUREsが花粉管に受容される過程を高速ライブイメージングし、シグナルのダイナミクスを画像解析する。また、誘引物質の受容の前後や種類により細胞壁を構成する多糖の組成に変化が見られるか、解析する。
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