公募研究
本研究では「植物細胞の脱分化・器官再生におけるペクチン構造再構成の役割を明らかにする」ため、独自に整備してきたペクチン分解酵素ペクチンリアーゼに関するシロイヌナズナpll変異体を中心材料とした解析を行っている。初年度には、pll変異がカルス形成のどの段階に影響するのかを詳細に解析した。この結果、3つのpll単独変異体ではカルス形成につながる内鞘細胞の増殖開始はほぼ正常に起こるものの、その後の増殖活性を維持できないことが明らかとなった。さらにカルス形成に伴うペクチン構造動態を調べるため、ペクチン主鎖であるホモガラクツロナン(HG)に対する抗体(LM19およびLM20)を用いた免疫染色抗体観察を行った。その結果、カルス形成誘導開始によって胚軸全体でペクチン生合成が活性化し(カルス誘導培養1日目)、初期カルスではペクチンの合成と壁への分泌が活発に起こる(誘導4日目)が、その後カルス全体でペクチンシグナルが低下した後(培養7日目)、カルス塊の内部で低メチル化HGが蓄積する(培養14日目)、といったパターンが検出された。pll変異体の胚軸では、ペクチンシグナルがカルス形成過程を通じて野生型よりも高い傾向があり、前述のペクチンシグナルパターンが乱されていた。以上の結果は、胚軸細胞の脱分化~カルス形成~カルス成長の過程で、ペクチン生合成活性やペクチン構造がダイナミックに変動していること、さらにこうしたパターンがpll変異によって攪乱されることを示唆する興味深い結果であった。
2: おおむね順調に進展している
初年度の大きな目的であったカルス形成に伴うペクチン動態を明らかにすることができたため。
研究終了となる二年目には、初年度に作製を完了したpll変異に関する二重・三重変異体、および膜局在レセプターキナーゼ変異体を材料に、ペクチン構造再構成シグナルによる遺伝子発現制御の実態解明を行う予定である。具体的には、これらの変異体では胚軸脱分化に関わる遺伝子群のうち、どういった因子が影響を受けているのかを調べ、細胞壁ダイナミクス不全がどのように遺伝子発現に反映されるのかを明らかにする。さらに細胞壁ダイナミクスのシグナルレセプター候補である膜局在レセプターキナーゼ変異体を材料とした表現型解析を通して、脱分化時のペクチン構造再構成シグナルの分子実体を突き止めたい。
すべて 2016 2015
すべて 雑誌論文 (4件) (うち査読あり 2件、 オープンアクセス 2件、 謝辞記載あり 1件) 学会発表 (6件) (うち国際学会 2件) 図書 (1件)
植物科学の最前線
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